『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』

山田 奨治著 『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』

「あとがき」だけを読む人のためにとして著者自ら本書の論点を五つにまとめてくれている。
「日本の著作権は、どんどん厳しくなっている」
「著作権の改正にかかわっているのは、ごく限られたひとたちである」
「厳しい著作権をむやみに外国に広げることは、文化の伝播を疎外する」
「法改正の議論は、閉ざされていく傾向にある」
「市民は法改正の議論に関心を持ち、発言すべきである」(p.203)


身近な例として本書で触れられているのが、映画館に行けば嫌でも目にする「 NO MORE 映画泥棒」のCMである。
このCMは2007年に成立した「映画の盗撮の防止に関する法律」、さらに2010年に「ダウンロード違法化」条項が施行されたのを受けてのものであるが、この法律は受益団体のロビイングによって、ほとんど議論が深まることもなく短期間に成立したものである。
実はこのCMは「市民に誤解を与えることを意図したメッセージだといわれたら、彼らは弁解できるだろうか?」(p.52)というように、法と照らし合わせるとミスリーディングを誘うようなものであるそうなのだが、僕も本書を読んで初めてこのことを知った。
著作権問題というと受益団体や無知な政治家が叩かれることが多いが、「同法のことがマスコミで話題になることはなく、識者もこの動きには気がつかなかった(p.50)とあるように、それを許しているのは無関心でもある。

CMといえば「著作権がやっかいで」などということを耳にしたことはあるのだが、これが驚くべきことになっている。
CMは「映画の著作物」として広告主、制作会社、広告会社の三者が権利を持ち合っている。そして「この業界の調和は、多くの可能性を捨てることによって保たれている」(pp.59-60)のである。
第一にあげられるのが「CMの公的アーカイブスを構築する」可能性が捨てられたことである。

フランスでは68年の「第一号CMからのほとんどすべての作品が国立視聴研究所(INA)からネット公開されて」おり、「韓国でも同様の公的CMアーカイブがあり住民登録番号のある韓国国民ならば世界中のどこからでも、過去のすべてのCMをネットで閲覧することができる」のである。それに対し「日本ではCMは著作権で厳重に守られていて、過去の作品の公開がままならない」のが現状である。韓国のCMアーカイブスを作った人の反応が傑作である。「CMはもともと多くのひとにみてもらうために作られたものなのに、その閲覧を制限していったい何になるのだ」(p.60)。まさにその通りで、出来の悪い冗談のようにも思えてしまうこの現状は広く知られる必要があるだろう。

CMをめぐってはさらにグロテスクなことが行われている。著作権を強く主張する一方で、大量の原盤が破棄されているのである。「CMの原盤は、制度的に保存されていないどころか、むしろ破棄が奨励されている」(p.61)のである。
本書にはさらに日本のテレビCM文化についての共同研究の結果を本として出版する際に、過去のCMの図版の使用許可を求めたところ、「広告主は論文の本文をみせるように要求し、論旨が広告主の意図と違うという理由で、図版の掲載を断ってきた」という例をあげている(p.68)。
これらを見ると、著作権者(著作者とイコールではないことに注意)は最早「文化を守る」というより文化の破壊に努めているのではないかと脱力してしまう。


本書にはさらに「オリジナル」とは何かをめぐる考察や、海賊版が新たな市場を開拓する可能性についてなどいくつも興味深いところが多くあったが、面白かったのはアメリカからの「年次改革要望書」をめぐっての部分である。
年次改革要望書は「アメリカ陰謀論」に使われることが多い。アメリカが自国の利益のために日本の様々なシステムに手を突っこんできており、日本で近年行われている「改革」はその意に沿ったものであることの証拠というわけだ。
ただこと著作権に関してはこの「陰謀論」は疑ってかかったほうがよさそうだ。本書にあげられる事例を読むと、アメリカの要望に従って日本の著作権法が改定されているというよりも、日本の官僚が法改正への圧力としてアメリカを利用というか協力をしているふしがある。


著者は「わたしは、著作権を厳しくし過ぎることには反対の立場なので、文章の端々にそれが出ているだろう。著作権擁護派のひとが読んだら、きっと激しい反感を持たれる部分もあるに違いない」(p.204)としているが、著作権に関しての報道(というか報道のされなさ)はバランスを逸しているように思える(もちろん著作権強化側に偏っている)ので、その点でも本書は貴重であろう。


欲をいえば初学者向けのブックガイドとかをつけて欲しかったかなあ。あと初学者が気軽に手にするにはちと値段が……。正直に言うと図書館で借りて読みました。






プロフィール

佐藤太郎(仮)

Author:佐藤太郎(仮)
shopliftersunionあっとhotmail.co.jp

最新記事
月別アーカイブ
カレンダー
02 | 2012/03 | 04
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
カテゴリ
twitter
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR