ノーベル文学賞にもっとも近かった作家

ウィリアム・トレヴァー著 『聖母の贈り物』




誰もがノーベル文学賞にふさわしいと評価しながら受賞がならなかった文学者というのは数多くいるが、先日亡くなったウィリアム・トレヴァーもその一人だろう。トレヴァーの場合早世したどころかむしろ長寿だったので、こういう人にきちんとあげておくべきだったのではと思うのだが、まあノーベル賞に限らず賞というのはそういうものだといえばそうなのだろうが。現代文学のブックガイドとしても役に立つ『ノーベル文学賞にもっとも近い作家たち』をもじっていうなら、「ノーベル文学賞にもっとも近かった作家」だったかもしれない。

『聖母の贈り物』は日本独自編集の「ベスト盤」短編集で、トレヴァーの短篇作家としての魅力がつまっている。
寄宿学校を舞台に「天然」の変わり者の少年を描いた「トリッジ」や修道士先生からも「のろま」と評される自動車修理工場の末息子の視点で語られる「ミス・エルヴィラ・トムレット、享年十八歳」などは、自伝的素材を扱っているのではないかというほど活き活きと語られているのであるが、物語の終盤でこれが大きくねじれていく。といってもO・ヘンリー的なこれみよがしな大どんでん返しではなく、また読者を選ぶ前衛作品でもなく、その巧みな筆致と構成によって惹きつけるものとなっている。

本書に収録されている作品だけでも多彩なテーマが扱われている。神父の兄と年の離れた弟が待望していた聖地を訪れた顛末を描いた「エルサレムに死す」は映像化にぴったりだろうし、アイルランドの過疎が進む農村で、夫を失った母と結婚を諦めて家を継ごうとする息子の物語である「丘を耕す独り身の男たち」は日本に置き換えてもそのまま通用するかもしれない。


多作であるので全集とまではいわないが、まだまだ未邦訳の作品も多いのでこれから邦訳が進んでくれればと思う。……とかなんとか偉そうなことを言えた口ではなく、日本語訳があっても未読の作品も多いのでまずはそこから読んでいかねば。

短篇の名手だけにアンソロジーにも数多く収録されてもいる。



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佐藤太郎(仮)

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