『流言とデマの社会学』

廣井脩著『流言とデマの社会学』




ネット時代の云々というようなハナシというのはどうも胡散臭い。結局こういうのってネットに関係なく前からあるよね、ということばかりのような気がする。もちろんネットの存在によって規模やスピードが拡大するということはあるのだが。
そんなわけでこの本の刊行は2001年ということでネットでの事例はほぼ取り上げられていないのだが今読んでも十分に勉強になる。

最初に取り上げられるのは「外国人労働者」による暴行の流言である。
これは「外国人労働者が女性を襲った」という流言が広まったものだが、この根拠のない話について廣井氏がテレビでコメントするとある女性から電話がかかってきたそうだ。「あれは根拠のない話などではなく、その証拠として自分も外国人にあとをつけられた」とのこと。廣井氏がなぜ外国人だとわかりましたかと訊くとその女性は「暗かったのではっきりわからなかった」だとさ。またこれに関連して「イラン人」が主婦を暴行しているというデマも、犯人が逮捕もされてないのになぜイラン人だとわかるのか、と訊かれると噂主は「中近東の人」と言いなおしたそうな。
これを読んで思わず笑ってしまったのだがもちろん笑い事ではない。この手のデマというのはちょっと考えればすぐにおかしいとわかるのに、偏見や不安によって冷静に考えるということがでいなくなってしまうことがしばし起こる。
日本人としては関東大震災の後にバラまかれたデマによって何が起きたのかを絶対に忘れてはならない。

なお「流言」と「デマ」という言葉についてだが廣井氏は「デマ」は意図的に仕組まれたもの、流言は自然発生的としている(p.33)。

オルポートとポストマンの有名な公式が引かれている(38ページ)。
「流言の量は問題の重要性とと状況のあいまいさの積に比例する」
つまり流言は問題が重要であり、状況があいまいであればあるほど広く伝播するということである。
なぜ和ではなく積なのかというとこのどちらかがゼロならば流言は発生しないからである。
ここであげられている例ではアメリカ市民にとってはアフガニスタンのラクダの値段は重要ではない。またわたしが交通事故で片足を失ったとすればそれはあいまいではないのでその人は流言を広げないのである。

流言にはいくつかのパターンがあるとしている。「漠然とした不安に形を与え、これを合理化する「不安流言」、人々の恐怖が投影された「恐怖流言」、不満をぶちまけて代償満足を得る「分裂流言(憎悪流言)」、願望を空想的に実現させる「願望流言」」(p.41)これらの具体例はちょこっとネットを探せばいくらでもざっくざっくと出てくる。
清水幾太郎の流言の分析も引かれているがこれも納得であった。
「ある事実(A)と別の事実(C)が既知であり、かつその間に何らかの意味で矛盾があるとき、このAとCを結びつけるために人々は流言(B)を造り上げ、A-B-Cという形で事態を統一的に理解する」(pp.59-60)
清水幾太郎もいいこと言っていたではないか。

風評被害の項で「ニュースステーション」のダイオキシン報道と東海村の臨界事故が取り上げられている。
「ニュースステーション」の取材、報道の仕方に問題があったのも事実であるが、同時にJAが取っていたデータをすぐに出さなかったことも風評被害を広めた一因となった。

もちろんきちんとした情報公開はデマ対策としても必須である。同時にやはりメディアというものがしっかりしていなくては流言、デマというものに振り回される人が引きも切らない状況が続いてしまう。
陰謀論などにしてもそうだが質の低い報道もこれらを拡散する一因となってしまう。
世の中には新聞・テレビさっさと潰れろw的な人もいるのだろうけど、これらのメディアの役割はまだまだ大きい。それだけに昨今のあまりの低レベルさは嘆かわしいだけでなく、悪質なデマがはびこるという危険なことにもつながっているのですよ。そこらへんをもう少しマス・メディアの中の人たちはわかっていてほしいものであります。

オルポートとポストマンの研究はこれ。そのうち読むか。



清水幾太郎のはこちらだが、すごい値段になっとる。



肝心の廣井氏の本が品切れだか絶版なのだが……
そういえば廣井氏も故人なのだが、清水幾太郎は呼び捨てでこちらは敬称をつけていた。
相変わらず敬称に一貫性がないな……
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佐藤太郎(仮)

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