変わらぬ国、ニッポン


近年「日本がおかしくなっている」と感じている人は少なからずいることだろう。
ある人は「小泉改革」がすべて悪いと言い、またある人は橋本政権の行革路線にその萌芽を見、あるいは86年に派遣労働が解禁されたことがすべての始まりだったと考える。
ついでに付け加えると、現在の管政権を「小泉政権よりひどい」と評する人がいるが、橋本内閣は自社さ連立政権であり、管直人を筆頭に当時のさきがけの主要メンバーが現政権を仕切っていることを考えればこれは当然のことなのかもしれない。

それにしても、そもそもそれ以前の日本は本当に「まとも」であったのだろうか。

「日本型システム」とされたものの一部が変更されたことは間違いないだろう。
一方で、もともと存在していた問題を放置し続けた結果だという側面を忘れてはならないだろう。

ってなことで小沢雅子著『新「階層消費」の時代』を読んでみた。
前にどこかで誰かが言及していて(失念)興味を持ったのだが、う~む、読んでみてなかなか衝撃を受けた。現在は絶版のようなので(僕は図書館で借りました)だらだらと引用しながら話を進めていきたい。
なお引用はすべて単行本から。

何に衝撃を受けたかというと現在言われていることってほとんど80年代半ばに言われていたことなんじゃないの、ってこと。前に小熊英二の『1968』の感想でも書いたが(ここ)当時の東大生への否定的評価というのは現在の若者批判とほとんど同じであった。いやはや、人間、この変わらぬ存在。

本書の刊行は1985年。高度成長は終わり、二度のオイルショックや「円高不況」などで日本経済の先行きに少なからぬ人が不安を抱いていたころである。ご存知の通りこの後バブルがやってくるのでありますが。

消費者は、もう踊るのがいやになった、という考え方(p i)

はい、いただきました。「嫌消費」です。日本人の消費嫌いは筋金入りのようで(補足しますがこういう説があるという紹介で、小沢氏が唱えているのではありません。以下同様の部分多し。少々誤解を招きかねない引用の仕方をしていることをお断りしておきます)。


この頃(80年代前半)から、消費性欲説とはまったく正反対の考え方、「消費飽和説」が台頭してきた。(中略)(「消費飽和説」とは)大部分の消費者は、その消費欲求をすべて満たしてしまい、もはや買いたい商品がなくなってしまった(p.21)

「日本人にはもう欲しいものがなくなったので、これからは成長ではなく成熟だ」なんてこと今でも言う人いますね。この後バブルが来るんですが。

(「買い物苦痛説」の第四の要因は)モラトリアム世代といわれる人々がいる。浅田彰氏ではないが、「逃げろや、逃げろ」と、決断を回避したがる今日の若い世代のことである。皮肉なことに、経済が繁栄して、商品の種類が豊富になった結果、モラトリアム世代の消費者は、最も嫌いな「決断」を、買い物のたびに迫られるようになった(p.56)

日本の若者はずっとひ弱です!買い物すらできません!

『企業戦士と女中兼娼婦の組み合わせ』という旧式な夫婦の時代が終わろうとしている。いまアメリカは新しい魅力を持った男たち”NEW MEN”の話題でもちきりだ。料理がうまくて、趣味がよく、子育てに興味をもつ人間らしい男たち(千葉敦子氏記事からの引用)。(p.59)

イクメン!
子育ての問題は後述。

高齢化とシングル(=単身者)の増加 (p.137)

繰り返しますが85年刊行の本からの引用です。


(高齢者の投資行動は)再分配機能の強化が予想される時には、人々はリスク・テイキングになりやすい。なぜなら、かりに投資に失敗しても、再分配によって、ある程度、失敗が緩和されるからである。
(中略)
 逆に、再分配機能の低下が予想される時には、人々はリスク回避的になる。というのは、若年者であれば、一度や二度失敗しても再起を期すことができるが、高齢者になるほど敗者復活のチャンスが少なくなるからである。
(中略)
この結果、大胆に言えば、再分配機能が強化されるとマクロ的には投資超過傾向に、再分配機能が低下するとマクロ的な貯蓄超過傾向になりやすいとも言える。言うまでもなく、前者はインフレ圧力となり、後者はデフレ圧力となる
(pp.148-149)

これは高齢者の投資などを扱った項なんですが、現在「リスクをおかすことを恐れる若者」なんて批判をする人がいますが、そりゃ失敗したらヤバい社会ならリスクを抑えたいと思うのは老若男女にかかわらず当然のことでしょう。

賃金格差が再現する(p.157)

しつこいけど85年の本からの引用です。

所得格差、賃金格差が拡大した原因は、一九七〇年代後半になって経済成長が低下して、労働需要が減少したことである。高度成長期には、労働需要が労働供給を上回っていたので、労働市場は、慢性的に人手不足な状態であった。それゆえ(中略)二重構造と言われたもろもろの賃金格差は縮小傾向にあった。
 ところが、低成長期には労働需要よりも労働供給の方が多く、勤労者に不利な状態になったため、再び賃金格差が発生した
(pp.161-168)

景気が悪いと格差は広がり、特に弱い立場の労働者はますます立場が弱くなる。普通に考えれば当然でありますよね。


経済的尺度だけから見れば、必ずしも分布が平等化し、「中」が増えるような状況でなかったにもかかわらず、「非経済的」要因を含めた尺度の多様化から、「中」意識は拡大していった。そして、逆に、こうして「中」意識が拡大するのに伴って、あたかも経済的尺度においても「中」になったかのような錯覚が、発生しやすくなったのではなかろうか。このこともまた、「日本人の生活水準は平等」、「日本人の経済的格差は縮小している」という実態とは、やや乖離した通説を形成するのに影響したと見られる(p.197)

ここは「一億総中流」幻想がなぜ生まれたかの分析ですね。
要するに昔(戦前や戦後の混乱期)と比べて相対的に豊かになったために「格差」の存在に目が向かなかっただけなのでありました。


経済的な不平等を是正するためには、分配構造を変えなければならない。経済成長率が高い時代には、「誰もが不利にならないように」分配構造を変えることができる。つまり、拡大したパレート最適を追及することができる。しかし、経済成長が低い時代には、「誰かを不利にすることなしには、別の誰かを有利にすることはできない」。この状態を「ゼロ・サム社会」といっている。
 ゼロ・サム社会で、分配構造を変えようとすると、改変によって不利になるグループが激しく抵抗するので、社会的な摩擦が大きくなる。人々が社会変動を嫌うようになると、経済的平等というベネフィットよりも、社会的な摩擦というコストを大きく計算するようになる。つまり、社会的摩擦を引き起こしてまで経済的格差を是正するよりも、経済的格差を放置してかまわないから摩擦を小さくしよう、という選択を行いがちになる
(p.201)

早い話が不平等を是正するためには景気がいいほうがいいということでよろしいでしょうか。
だとすればまったく同意であります。

「日本は中福祉中負担の国」なんてことを今でも言う人がいますが、現在明らかになっているのは、実際には「中福祉」などではないということでしょう。本来行政が担うべきサービスを企業に丸投げしていたというのが実態だったのではないか。

これを多くの人が一番実感できるのが子育てにまつわる環境ではないだろうか。
高度成長期には、労働市場から女性を排除することで男性は完全雇用を手にし、男性が会社に長時間拘束される代わりとして安定した雇用と右肩あがりの給与があり、そして労働市場から締め出された女性は家庭に入り、家事育児を一手に担うことになった。

本書でも少し触れられているが、そもそも日本では、女性は必ずしも結婚して家庭に入るというのではなく、このような慣行は高度成長期に当然視されるようになったと考えたほうがいいだろう。
従って、「女性が社会に進出して家庭が壊れた」などという一部の「保守」(ってどこの何を守っているんでしょう)の人が主張することは的を射てない(ここらへんは斉藤美奈子著『モダンガール論』なども参照)。

男性の雇用、賃金が安定していて、女性が家庭に入るということを前提にして現在の子育てにまつわるシステムはできあがっている、いや、システム自体がそもそもなかったのである。

結局のところ、安定的に継続できる社会システムというものを構築する前に、かろうじてまわっていた社会に手を突っ込んでしまったがためにそのしわ寄せが社会の弱い部分に集中しているというのが現状でなのではないか。

NHKの「無縁社会」や朝日の「孤族」へはいろいろな反応があると思いますが、僕は思いっきり否定的です。
要するにこれって適切な行政サービスなんぞに期待すんな。野垂れ死にしても手前らの自己責任だ。それが嫌なら「伝統的」な共同体に回帰し、「規範的」な家族をさっさと作れ、といってるようにしか思えない。要するに似非保守の嫌らしさそのまんまという印象。

もちろん、中長期的には「底が抜けた」ではなくそもそも「底がなかった」社会のシステムを新たに構築することが必要であろう。
一方で、だからといって短期的に何もしないでいいということではない。
では何をすればいいのか?
もちろん景気をよくすることである。

現在の日本社会の様々な問題は、確かに抜本的に手をつけなければどうにもならないこともある。
しかし少なからぬ部分が、景気がよくなることによって解決とまではいかなくとも、少なくとも改善はされることも間違いないであろう。

残念ながら、自明のことのように思えるこのようなことも現在の政権担当者及びマス・メディアにはまるで通じないのだけれど……

とにかく読むといろいろ考えさせられる本でありました。



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佐藤太郎(仮)

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