『ああ、なんて素晴らしい!』

ショーン・ウィルシー著『ああ、なんて素晴らしい!』




プロローグの章題は「やりすぎ!」である。

ママは宣教師の娘として素朴に育っていたが、ある日自分の美貌に気づき、モデルの仕事を始める。結婚離婚を繰り返しながら社交欄をにぎわせるセレブとなる。

パパはバター会社と卵の会社を継ぎ大成功。大金持ちとなる。こちらも結婚離婚死別とたいへん。パパの父、つまり祖父も同じような経験をする。「ヘイズ(祖父)が妻より長生きする確立は三割。パパは五割。(中略)パパの結婚相手には、脚韻のペアが二組ある。ヘイズのほうはかろうじて一・五組}(p.44)。そしてママと結婚をする。

パパとママとショーンはとっても幸せだった。ママの親友のディディもいい人だし。
でも両親は離婚。しかもパパはディディと再婚。二人は結婚生活中から浮気をしていたのだ。継母となったディディは結婚した途端人が変わったようにショーンに意地悪を始める。

ママは離婚問題で深く傷ついたが、新たにノーベル平和賞目指して平和運動に燃え出す。
子どもたちを率いてローマ法王に謁見したり冷戦下のクレムリンの内部へと足をはこんだり……

なんて書くと「やりすぎな小説!」と思う人がいるかもしれないが、これは全て実話。そう、これはショーン・ウィルシーの自伝なのである。

この後ショーンは寄宿学校へ入れられるが問題を起こしては退学を繰り返す。最初はいたずらっ子という程度だったが次第に行動はエスカレートしていき、ついには少年院に入れられる危機にまで陥る。親の愛に飢えた子どもの典型的行動といえばそうなのだが、精神的には相当キツい経験をしたことも間違いない。タイトルの「ああ、なんて素晴らしい」はショーンが生き抜くためにつぶやかざるをえないセリフからきている。

しかし、この作品の魅力はすっとぼけたような語り口にある。シリアスな、子どもの精神の危機の物語というよりかは爆笑エピソードの連発のように思えてしまう。実際はディディの嫌がらせはほんと陰湿なのだが、それでもショーン君は、ほんとは彼女は僕のことを求めているんだ!という妄想にかられてディディとの性的妄想にふけってしまう!

『ライ麦畑でつかまえて』の有名な書き出しでは「デイヴィッド・コッパーフィールド式のくだらない云々」であるが、この作品はディケンズが『ライ麦』を書いたら、いやもっと身近な例としてジョン・アーヴィングの作品をも思わせてくれる。

ショーンは取り返しのつかないところまで堕ちたかに思われたのだが、そんな彼を救ったのは独特の教育方針で運営されるイタリアの寄宿舎学校のアミティである。
この場所をショーンは村上春樹の『ノルウェイの森』の阿美寮に重ねている。ショーンは村上春樹を愛読しているのである。


僕がこの本を手に取ったのは春樹の『夢をみるために』と『雑文集』でショーンに触れていたためである。『夢を見るために』ではショーンとのメールインタビューが収録されているし、『雑文集』ではこの作品の紹介文が収録されている、というかそもそもこの本の翻訳を薦めたのは春樹自身であったのである。飛行機の中で送られてきた見本刷りをぱらぱら読み出したらやめられなくなってしまったそうなのである。

どうしてそんなに熱心に読んでしまったのかというと、理由ははっきりしている。①とても読みさすくて、②やたらおかしくて、③それでいてずいぶん切ない話だったからだ。(『雑文集』p.276)

正直アミティ以降のとんとん拍子はちょっと出来すぎというか、まぁうまくいったから書けるんだよなぁって感じでもあるんですが。
とにかく「やりすぎ!」な人たちはパパもママも、そしてショーンもいかにもやりすぎアメリカ人的で。
同時に読みながら浮かんだ作品はディケンズ、サリンジャー、アーヴィングのミックスであったが、一番近かったように思えたのはレセムの『孤独の要塞』であった。
ここらへんを読むとアメリカでボンクラ文化系が生きていくのはつらいのよお、と思うのですが、現在ショーンは先端的文芸誌『マクスウィーニー』の編集者として成功しているのですよね。

とにかく滅法面白い!ことは請け合いであります。

ショーンとママ。




ショーン・ウィルシーが編集を担当した本は邦訳も出ている。
『世界の作家32人によるワールドカップ教室』



『孤独の要塞』の感想はこちら



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