『アムステルダム』

イアン・マキューアン著『アムステルダム』




小説の冒頭、モリー・レインの元恋人たちは彼女の葬儀で顔を合わせる。これは彼らの物語となる。
中心となるのは作曲家として成功したクライヴに新聞の編集長になったヴァーノン。
二人は若いころはそれなりに反抗的であり、歳をとるにつれ丸くなり、よくいえば社会にうまく適応している。小山太一氏は訳者あとがきで「不完全な善人」と書いているが、それなりの成功を収めているとはいえ、まさにどこにでもいるような中年である。

安定を築いたかに見えた二人の世界が次第に壊れていくという展開になるのだが、これをいったいどう考えればいいのだろうか。

マキューアンは1948年生まれで、主人公二人と同世代である。イギリスにおいてこの世代がどういう立場かよく表している部分がある。

戦後の社会保障体制下、ミルクとジュースをたっぷり支給され(中略)青年に達したのは完全雇用、大学新設(中略)そして理想実現の時代だった。のぼってきた梯子がくずれたとき(中略)彼らはすでに安全を確保し、群れをなして、さて落ち着いていろいろなものを形成しはじめた―趣味や意見や財産を。(p.16)

これは「ぼくらの世代」(もちろんフーの「マイ・ジェネレーション」からの引用)が報いを、ツケを払わされる話なのだろうか。一面においてはそうであろう。しかしうまく逃げ切る連中。彼らは報いを受けなくていいのだろうか。
単純なある世代への告発などというものではなく、不条理にして残酷な世界の有りようでもあるのだ。

マキューアンの筆致や物語の進め方は、まるで鋭い刃のナイフで頬をなでられたかのようだ。ひんやりとした重い感覚。そしてあとからやってくる鋭い痛み。
世界というナイフを突きつけられるかのような小説である。

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佐藤太郎(仮)

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