『ピアニスト』

映画史の教養などまるでない僕には『ブラック・スワン』の元ネタをいくつ見つけられるかというゲームにはとても参加できませんが(シネマハスラーで宇多丸さんがいろいろ挙げてくれています。こちら)。その中でも特になんて話もあるミヒャエル・ハネケ監督『ピアニスト』(2001)を見てみました。


音楽院でピアノ教授を務めるエリカは母親と二人暮らし。中年に差しかかっているのに帰りが遅いことをなじられたりバッグの中をあさられたりと母親の厳しい監視の中、エリカはある趣味にふけっていた。そんな中、才能あふれる若い男が現れ彼女に愛を告白をするが……


いやあ、想像以上に似てましたね。
閉鎖的ハイカルチャー(クラシック音楽/バレエ)に歪んだ母娘関係、精神のバランスを崩していく主人公といった設定上の類似のみならず絵作りなどもかなりいただいちゃってますね。特にアパートの雰囲気なんかはモロじゃんというところが多々ありました。

もちろんまるっきり一緒というわけではなく、一番大きい差異は主人公の年齢であろう。
『ブラック・スワン』のニナは少女とはいえないが(処女かもしれないが)まだ若く、ある種の幼さも許容されるかもしれないが、エリカはといえばすでに中年(こちらも処女かもしれないが)でありながら母親からまるで子どものような扱いを受けている。母親への依存はエリカの方がひどく、その分「病的」な度合いはこちらの方が高いだろう。

ニナの狂気は母親との関係もさることながらバレエでの不安も大きく作用している。
エリカは過剰な抑圧によって倒錯へ至る。おそらくは教師としては表向き卒なくこなしているのだろうが、それだけに狂気もまた深くなっていく。まるっきり無表情で地味な服装というのは「冷徹な女教師」のステレオタイプともいえるし、その女教師が実は……というのも珍しいものではない。両作とも人物造詣としては斬新というのではなく、ありきたりといっていいほどですらある。際立つのは描写の徹底したエグさであろう。『ブラック・スワン』も相当にエグい作品であったが『ピアニスト』のそれはまた違った意味ですさまじい(ある手紙を読み上げる時の無表情っぷり!)。

『ブラック・スワン』は一人称的であり。観客はニナの視点に入り込み感情移入できる。
『ピアニスト』は三人称的でエリカは突き放されたように描かれる。
また幻覚にしても『ブラック・スワン』では多くはそれとわかる形で示されるが、『ピアニスト』ではどこからがエリカの幻覚なのかはっきりとはわからず、一連の出来事が全て妄想であるという可能性も全て真実であるという可能性も排除できない。

過剰なまでに視覚化しようとする『ブラック・スワン』はいかにもハリウッド的で、余白を多くとる『ピアニスト』はヨーロッパ的というとあまりに凡庸な対比となってしまうが。
カタルシスまで与えてくれる『ブラック・スワン』に対して『ピアニスト』では感情が置き去りにされる。これまたひど言い方になるが、「芸術度」としては『ピアニスト』の方が上であろう。まあ、個人的好みとなるとそれとはまた別でしょうが。

なんか『ブラック・スワン』との対比ばかり書いてしまったけれど、この『ピアニスト』は非常に面白かったです。
ハネケってどうも「理」が勝ちすぎている感じがしてあまり見る気がしなかったのですが食わず嫌いはよくありませんね。
これに限らず、さすがにここまで似てるといくらなんでもという気にもなってしまうのですが、とはいえおかげでこの作品を見られたということで『ブラック・スワン』チームを勝手に免じてあげましょうか。








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