小説家として 2

さて、ようやくカタルーニャ国際賞スピーチに辿り着いた。

このスピーチについて、村上春樹が反原発を唱えた!と好意的なものと、言ってることは特にどうということのない凡庸な一般論にすぎないという否定的なものと、主に二つの反応があったように思う。

「政治的」に見れば、実は僕は後者に近い印象を受けた。少々ひっかかるところもないではないが、全体としては概ね同意できるといっていい。一方で「政治的」には凡庸であるという印象も拭えない。あの村上春樹があえて凡庸なことを公の場で発言したということに意味を見出せなくもないが。

しかし、そもそもこれは「政治的」発言であったのだろうか。全文を読んで、これは「政治的」というよりもエルサレム賞スピーチと同じく小説家としての宣言だったのではないかと思える。

藤原新也はこのスピーチを聞いてブログで「文学をしている場合ではないのだ」と書いていた。藤原はある意味では正しく読み取り、かつ間違っている。
村上春樹はここで「文学をし続ける」ことこそが自分の役割であると宣言したのではないだろうか。「過酷な現実世界の中で”生きて”はいな」いのではなく、過酷な現実の中で生きるために。「地獄の片鱗にでも触れて語るべき」ためには文学をこそし続けなくてはならないのだ。
「このステロタイプな分析が世界に名だたる作家の言葉かと耳を疑」ったそうだが、作家というものが狭い意味での政治的に正しい存在であらねばならないとすればこの批判は妥当であろう。しかしそのような考えから導かれるのは作家の人格と作品とを結びつけずにはいられない浅薄な文学観であり、そのようなものがいかに貧相なものかはいうまでもないだろう。

優れた小説を書くことは単に「夢を見る」だけでは叶わない。決して逃避でも現実から遊離することでもないのである。

夢を見ることは小説家の仕事です。しかし我々にとってより大事な仕事は、人々とその夢を分かち合うことです。その分かち合いの感覚なしに、小説家であることはできません。

サルトルのいうところの「飢えた子の前で文学に意味はあるのか」という問い。近視眼的「政治的正しさ」を求める人にとっては考えるまでもないことだろう。しかし、それでもあえて「文学を信じる」と言いきれる作家がどれだけいるだろうか。
「非現実的夢想家」になることによって、変えることができないと思われていたものを揺さぶることができるようになるかもしれない。もちろん、それは『羊』にあるようなアイロニカルな最後を迎えることになるかもしれない。歴史を振り返れば文学は無力であったと結論づけられるかもしれない。しかし「夢」を分かち合うことに賭けることこそが作家のすべきことなのではないか。

作家はやはり文学を信じなければならないし、これは「政治的正しさ」の問題とは別次元のことなのである。
僕はこのスピーチを、村上春樹のあくまでも小説家としての宣言であると受け取った。


誤解のないように付け加えると、僕は何も作家は政治的発言をすべきでないということを言っているのではないし、政治的活動を積極的にしている作家を批判しているのでもない。表層的に括弧付きの「政治的意見」を求め、踏み絵を踏ませるようなことをさせ、レッテルを貼り、それが気にくわないと人格も作品も否定するというのはあまりに不毛かつ危険なことであろうということが言いたかったのである。今回は「左翼」をやり玉にあげたが、このような傾向は政治的左右を問わずよく見られる。
またこのような傾向は内輪の論理を優先して党派性ばかり追求することに終始する「文壇」的なものとコインの裏表であろう。これがどれだけ文学をやせ細らせてきたことか。
このような姿勢が文学を信じることを難しくさせてきた。
95年以降の村上春樹は必ずしも政治化したのではなく、文学を信じ、文学をし続けるという正面から言うには少々気恥ずかしくなるメッセージを発することを躊躇わなくなってきていると考えたほうがいいのではないかと思う。そして僕はその姿勢にシンパシーを覚えるのである。


……なんてこと書いていたらこんなものが。思いっきりちゃぶ台ひっくり返されている部分があるじゃねえかよ。ま、とりあえずこれは日本語の通訳が入ったスペイン語でのインタビューが英語でのインタビューなのかわからないし、えてしてこういう場合インタビュアーかインタビュイーのどちらかが話を単純化することがある上にさらにそれを日本語訳したということで、とりあえずこれについては保留ということにしときますかな。いやはや、ハルキさん、あんたほんとにいけずな人で……

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佐藤太郎(仮)

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