Last Night in Twisted River

Last Night in Twisted River




ジョン・アーヴィングの新作(というには発表から大分時間が立ってしまっているが)。
邦訳が出るまで待とうと思っていたけど、こないだ古本屋でペーパバックが安く売っていたのでちょぼちょぼ読み始めてようやく読了。

あらすじはWikipediaを参照(こちら)。思いっきりネタバレしてますが。

アーヴィングは非常に好きな作家で、とりわけ80年代までに書かれた作品は本当に素晴らしいものが多い。裏を返せばインド人もびっくり!の『サーカスの息子』以降というのはちょっとしんどさを感じていることも確かで。『未亡人の一年』とかはかなり好きだったけれど。

さて、本作を読み始めて『ガープの世界』が浮かんで来るという人は多いだろう。
『ガープ』は母と息子の物語であり、息子は作家になる。本作は父と息子の物語で息子は作家になる(まぁ、アーヴィングの作品はその他にも作家だらけなんだけど)。

『ガープ』はとにかくページをめくるのもまどろっこしいと思えるほど面白く、同時に残りページが少なくなっていくのが寂しくなるほど人を惹きつける物語であった。
一方の本作はというとどうにもダラダラと……と感じてしまったのは僕の英語力の無さだけが理由ではないだろう。

なんといっても息子である作家の切迫感というものが違う。
『ガープ』執筆時のアーヴィングは一般的にはほとんど無名であり、野心と自信、不安と焦燥というのはアーヴィングのものでありガープのものでもあった。ガープは作中でベストセラー作家になるが、アーヴィングも『ガープ』で一躍時の人となる。
Last Night in Twisted Riverのほうではダニーは内的動機も乏しいように思えるし、その成功も取ってつけたように感じてしまった。成功者となったアーヴィングが昔の感覚をすっかり忘れてしまったとは思いたくないが。

アーヴィングは自伝的要素をよく作品に持ち込むし、その他にもなじみの題材というのを繰り返し使うので、作家としてのキャリアの結構早い段階からある程度既視感というものがついてまわっているのだが、これも長年の読者にとってはうれしいものでもあった(「熊キターーー」ってな感じに。ここらへんはまたもこちらからWikipedia参照)。

ただ本作におけるそれはいささか、というかかなりしんどくもある。正直劣化コピーのようとも。
ガープとのことはすでに書いたが、ダニーがヴェトナムに行くかというところでケッチャムが指先を切り落とせば徴兵を逃れられると言うんだけど、これってもろに『オウエン・ミーニー』だよなあ。またアイオワ大学でヴォネガットが実名で登場するが、ご存知の通りアーヴィングは実際にアイオワ大学でヴォネガットに師事したのだけれど、こういう読者への目配せもうまく効果を発揮していないような。
特に中盤がしんどくてかなり読み飛ばしてしまった。

アーヴィングの作品は読み進むうちに複数の人物に感情移入することができ、それがどの作品にも終盤に用意されているガツンと頭を殴られるようなショッキングなシーンの効果を高めている。「泣ける」といってもそれは文字通りの意味でないことが多いのだが、アーヴィングの優れた作品では僕は実際においおい泣いてしまうのである。

本作でも終盤に二度この手の場面があるのだけれど、今ひとつ登場人物に感情移入できないためにその衝撃というのも半減してしまっている。
90年代以降の作品はいささかしんどいと書いたが、その一番の原因はこの感情移入というものをうまく導くことができなくなっているからではないかと思うし、残念ながらこの作品でもそこは解消されていなかった。

個々のエピソードとしては面白いものもあったので無理矢理大長編に仕立て上げなくても(そう思えてしまった)中篇だったり連作短編みたいな感じにしても良かったんじゃないかなあと思えたのだけれど、まあそれではアーヴィングの作家としてのアイデンティティに関わってきてしまうのだな。こういう作風だといい感じに枯れていくというのは難しいんだろうなあ……

と、ちょっぴり寂しさを憶える作品でありました。





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佐藤太郎(仮)

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