『フランク・ザッパ自伝』

フランク・ザッパ+ピーター・オチアグロッソ著 『フランク・ザッパ自伝』




フランク・ザッパと聞いてどんなイメージが湧くだろうか。
敷居が高い?
まぁそうだろう。なにせ生前に出されたアルバムだけで60枚以上! しかも音楽性はあまりに多岐に渡っている。おまけに当人が数々の奇人変人エピソードに彩られている。
実は僕もその敷居の高さにはねかえされたクチなのだが、そんな人間にもとても面白く読める。

ザッパが自伝を出すことを決意したのは「俺のことを書いたと主張するバカバカしい本が、英語以外のものを含めて増えつづけているからだ。せめて一冊くらい、本当のことを書いてある本があってもいいじゃないか」(p.8)との理由からだそうだ。かくしてあの「ステージでのウンコ喰い伝説」の真相も明かされる。

ザッパはその気があればロックのメインストリームでスターになることも可能なほどの能力を持ちながらそれをはぐらかし続けていったともいわれる。
少年時代の爆弾作りに熱中したくだりから、R&Bのシングル集めに熱中しつつエドガー・ヴァレーズの前衛音楽「イオニザシオン」に魅了されるエピソードはザッパが早くからザッパその人であったことをよく表しているようである。

「ウィスキー・ア・ゴーゴー」への出演だとかグルーピーたちとの楽しいやりとりなんかもあってここらへんはロックファンとしてはいろいろ楽しい(自分のイチモツの型でナニしてしまうジミヘン!)。

とかく変人イメージが強いけど結構いいパパそうでもあるんだな。
上の二人の子どもには15歳で大学入学資格を取らせたがこれは子どもたちを早くカリフォルニアの教育制度から脱出させたいからだとか(下の子たちもそうさせるつもりとのこと)。
「こと子育てに関する限り俺がいつも忘れないように努めているのは『子どもはひとりの個人である』という点だ」(p.328)。

もちろん「普通」のパパではありそうもないけど。
一番上の子どもは「ドゥイージル」と名づけたかったが看護婦の反対で出生証明書では「イアン・カドナルド・ユークリッド・ザッパ」となってしまった。これを知った5歳のドゥイージル君は正式にドゥイージルへの改名を要求!
ちなみに「チャスティティ・ボノ」という名前を付けられた少女は文句を言うたびにザッパ家を引き合いに出されてこう返されるそうだ。「ドゥイージルと名づけられなかっただけでも、ありがたく思わなきゃ」(p.323)

そしてザッパはこう言う。「精神的に健全で幸福な子どもを育てたいと思っている人に、俺からできる最良のアドバイスは、できる限り教会から遠ざけて育てなさいということだ」(p.338)

本書はまた、ザッパにもロックにもそれほど興味がない人にも注目すべきポイントがある。それはアメリカにまつわるある側面である。
後半で多くページが割かれるのはティッパー・ゴア(当時のアル・ゴア上院議員の妻。つい先ごろ離婚した際にもかなりネタにされた)が仕掛けたロックの歌詞への攻撃への反撃である。

ザッパは若いときにあることで刑務所に入れられた。それは「ポルノ・テープを作ってくれ」というおとり捜査にまんまと引っかかってしまったせいだ。それにしてもわざわざそんなおとり捜査をするとは!

ティッパー・ゴアにしろおとり捜査の件にしろ、その背後にあるのは性への歪んだオブセッションであり、それはキリスト教原理主義に結びついているものであろう。
ザッパはこれと正面から戦い、ついには上院の公聴会でも証言をするが、そもそもこんなことをするハメにまで陥ってしまうのも(これは80年代の出来事であることに注意)同じキリスト教圏といってもヨーロッパの多くと違い、意識の上での宗教と世俗との分離に失敗した、いかにもアメリカな出来事であろう。

茂木健は訳者あとがきにてマイケル・ムーアに触れているが、これはとっぴょうしもないことではないであろう。ブッシュ・ジュニアを大統領にしてしまうようなのはいかにもアメリカであると同時に、マイケル・ムーアのような人物を生むのもまたアメリカ的である。
珍妙としか思えない思想が現代に至ってもまだ大きな影響力を持っている(というかますますひどくなっていっている)のもアメリカなら、それに立ち向かう人材を生み出すのもまたアメリカかな、と。

ザッパはキリスト教への歪んだ狂信だけでなく、80年代になって露になった右傾化なども舌鋒鋭く批判する。同時に彼は建国の父祖たちの言葉も引用する。例えば「いかなる意味においても、合衆国はキリスト教の教義に基づいて建国された国ではない」というワシントンの言葉。
そして本書の最後はこう結ばれる。「あっとそれから、投票者登録を忘れないでくれよな」(p.465)


原著が刊行されたのは89年秋。ザッパは90年には前立腺がんが見つかり93年に52歳で死去している。
子ども時代の回想で鼻に問題を抱えていたザッパ少年は治療として鼻の奥にラジウムの粒を刺されたそうだが、それが影響した……のかはもちろん不明なのでありますが、今この部分を読むといろいろ考えさせられたりもして……。


「イオニザシオン」ってこれかな



あと、どうでもいいけど王様の「湖上の煙」が頭の中で延々と鳴り続けとる。
「ふらんく・ざっぱとまざ~ず、偶然ライヴをやっていた~」



懐かしいw これ出た時ピーター・バラカンさんが「意識したことなかったけどこんな歌詞だったんですね」みたいなこと言ってたっけ。




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佐藤太郎(仮)

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