『ピンチョンの『逆光』を読む』

木原善彦著 『ピンチョンの『逆光』を読む』




タイトルの通りピンチョンの『逆光』の訳者による解説本。
「ピンチョンの近づきにくさを少しでも減らすために(中略)「補助線の引き方の一例」として」(p.10)書かれた。

『逆光』を読んでからこちらを読むべきか、こちらに目を通してから『逆光』にとりかかるべきか。
まずまっさらな状態で『逆光』を読んでから……と言いたいところであるがなにせ訳書で約1700ページの大著であるうえに、ピンチョンの作品としては比較的読みやすいとはいってもそれはあくまで比較の問題、やはり何か助けが欲しいという方はこちらをまず読んでからというのは一つの手でしょう。

もちろん全てを詳細に解説してくれているわけではないが(そんなことしようとすればすさまじい厚さになってしまう)『逆光』を読み勧めるうえで、あるいは既に読み終えていても作品について考えるうえでぜひとも手元に置いておきたい。

ピンチョンといえば超のつくほど歴史の細かな襞に入り込んで、嘘のようなホントの話をネタに使ったり、思いもつかないような歴史的出来事同士をを架橋したりもする。
それらを存分に楽しみたいところであるが、そうたやすくはいかない。

一般的アメリカ人がピンチョンの作品に出てくる要素をどれだけ理解しているのかはよくわからないが、アメリカ人であるピンチョンが英語で執筆しているということは日本人はそれだけ大きな出遅れを余儀なくされているわけで(もっとも全てがそうとはいえないかもしれない。『逆光』でいうと日本人なら明石二郎が実在の人物で釣鐘ウメキが架空の人物であることはそれほど予備知識がなくともわかるだろうが一般的アメリカ人ではそうはいかないであろう)、ピンチョンが想定読者の「常識」ラインをどこに設置しているにせよ、本書はそれに近づく一助となってくれる。

『逆光』は19世紀末から20世紀初頭にかけての物語であるが、当時のアメリカの労使紛争(いや、「戦争」というほうがふさわしいくらいだ)について。またシカゴ万博は当時の人々にとってどのような風景として写っていたのか。あるいは四元数について……は僕のような人間には本書を読んでもわけわかめなのだが。

『逆光』(に限らずピンチョンの作品)は一読しただけでは網羅的に理解することは(少なくとも僕にとっては)不可能なのだが、ということは新たな知識を仕入れることによってまた別の読みの可能性が得られるということでもある。
前に書いた感想(ここ)をお読みいただければわかる通り、僕は『逆光』をもっぱらトラヴァース家の子どもたちの物語として読んでしまい、〈偶然の仲間〉を枝葉的に流してしまった(というか流していかないと頭がついていかなかった)のだが、それでも最後はグッとくるものがあった。木原さんが本書で示すような〈偶然の仲間〉についての読みの可能性をふまえて小説のあの結末に到達するとその思いはさらにひとしおとなるだろう。

『逆光』をまだ読んでないという方には大きな助けとなるだろうし、もう読んだという方にとっては再読への欲求にからさせてくれる一冊であろう……とはいうものの、何せあの長さ、読み返えそうというのもやっぱ大変なのだが。

読んでないけど読んだフリはしたいという方には詳しいあらすじも載っています。ただいかんせんそういう方には登場人物を追うだけでもついていけなくなる可能性は大ではありますが。
あらすじはむしろ読み途中の人が確認や復習用に使うといいかも。年表もあってこれは読む時に大いに重宝しそう。
あぁ、やっぱり読む前に手にしておきたかったかも。

そして、できれば『V.』や『重力の虹』でも日本語で読める同じような本が欲しいのでありますよね。需要は確実にあるはず(数はどれほどかは保障の限りではないけど)。
研究者並びに出版社の皆様どうかご検討のほどよろしくお願いします。
そう考えると本書を書いてくれた木原さんと出版してくれた世界思想社には感謝なのであります。

『逆光』を読むうえでの参考文献については前に書いたこちら。木原さんのピンチョン本の感想はこちら

これも読みたいな。





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