『ミレニアム』祭り

夏だけに心だけでも北欧に、というわけでもないのですがここしばらく一人勝手に『ミレニアム』祭りを開催しておりました。

著者のスティーグ・ラーソンは長年ジャーナリストとして活躍。『ミレニアム』シリーズの執筆に取り掛かり三部まで書き上げ四部を書き始めたところで急逝。大成功はおろか出版すら見届けることはできなかった。


まずは一作目の『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』から。




ジャーナリストのミカエル・ブルムクヴィストは大企業のスキャンダル記事によって名誉毀損の有罪判決を受けてしまう。そんなミカエルのもとに、別の大企業グループの元会長であるヴァンゲルから表向きは伝記の執筆、その実約50年前に行方不明となり殺害されたとおぼしき姪の事件の調査の依頼がある……


本作にはミステリーの要素が全てつまっている、とまではもちろんいえないのだがそれに近いほど様々な要素が組み込まれた作品となっている。著者が50歳近くになってから執筆された小説ということもあって出し惜しみをしなかったせいなのかもしれない。

ミステリーといえば魅力的な探偵役が欠かせない。
ジャーナリストのミカエルは雑誌「ミレニアム」の発行人でもあり、志の高いジャーナリストであると同時に下半身は緩め。
そしてリスベット・サランデル。パンクファッションに身を包み、社会的適応性に欠けるがスゴ腕のハッカーであり警備会社の優秀な調査員。このシリーズの主役はリスベットといってもいいだろう。
リスベットでひっかかるのは訳書において「○○よ」「××だわ」式の「女言葉」を結構使っていることかな。まず仏訳から日本語訳してそれをスウェーデン語の原著と照らし合わせたということで元がどうなのかというのはわからないのだけれど、キャラと合ってないよね。

様々な要素が詰まっていると書いたが、家系図に密室化した孤島の地図あたりを見るだけでよだれがじゅるじゅるとなる人もいるかもしれない。他にも連続猟奇殺人、暗号解読。またスウェーデンの暗い過去とヴァンゲル家のそれとが現在と絡み合うという展開ととにかく盛りだくさん。
また社会派的要素もある。モラルなき企業やジャーナリズムの腐敗への憤り。
著者は反極右の立場のジャーナリストであったそうだが、またフェミニズムへもシンパシーを抱いており、それは本シリーズ全体に貫かれるテーマでもある。

フェミニズムと聞くだけで逃げ出したくなるような人もいるかもしれないが、そういったものはそうはうるさく前景化されているわけではない。
盛りだくさんである一方でヴァン・ダイン的衒学趣味はないし、エーコのような文学的香りというものもない。
文体も内容も難解ではなく、文学的アリュージョンも「名探偵カッレくん」や「長靴下のピッピ」程度のものだ。
良かれ悪かれ「大衆的」なものとなっており、ここらへんに本シリーズがベストセラーになった理由もあるのだろう。

とにかく面白いことは間違いない一冊でありました。


んで、二作目の『ミレニアム2 火と戯れる女』




あの事件のあと、リスベットはミカエルとの接触を絶っていた。
一方ミカエルは「ミレニアム」誌において人身売買と強制売春について取り上げる準備をしていた。しかし記事の執筆を担当していたジャーナリストのダグとその恋人で調査に協力しており、犯罪学の博士論文を書いていたミアが殺される。そして容疑者として浮上したのがリスベットであった……


この作品にはシリーズ物の強みと弱みが両方ある。
なんといっても本作で鍵を握るのは謎めいたリスベットの過去である。登場人物への共感と興味によって物語は牽引されていく。これは強み。
しかし少年漫画などでよくあるがキャラクターの強さがインフレを起こしてしまうというところが弱みかな。探偵側が最強なら事件は瞬く間に解決だし、犯人側が最強なら安全犯罪成立。これを避けるには双方がすさまじい能力を持ちながら同時にえらくマヌケなこともしてしまうという展開になってしまう。特に最後は「おいおい」と突っ込みいれざるを得ない。ちょこっとネタバレしてしまうが『キル・ビル』好きなのかね。
ミステリーとしては正直少々タルかったかも。


まだまだいくよの三作目。『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』




リスベットをめぐってミカエルたちはついに公安と対決することになる。そこにはあるスパイをめぐる陰謀が……


長所も短所も二作目と同じかなあ。リスベットやエリカ(「ミレニアム」の共同経営者にして編集長)の身の上が心配になる一方で国家レベルの陰謀にしては間抜けすぎやしないかね、とも。
キャラのインフレも止まらず「ミルトン・セキュリティー」なんて「ジョジョ」のスピードワゴン財団化していっとるし。

二作目もそうなんだけどちょっと長すぎかね。エリカのパートなんてストーリー上必要だったのかいなと思えるし。
ま、回収されていない複線もあって次作以降へのエサ撒きというところもあったんだろうけど。
大団円ともいえる終わり方でシリーズに一応の決着はつけられておりますが。

なかなか興味深いとも思えるのは、著者の経歴などを考えると警察や公安は皆敵だとなってもおかしくなさそうなのだが必ずしもそうではなくて良心的な人も描かれているのですよね。
このシリーズはスウェーデンの現代史が一つのキーになっているのだが、著者は基本的にはスウェーデンという国家やその民主主義に対しての信頼を保っているということの反映なのかな。

「3」の訳者あとがきでラッセ・ベリストレムの言葉が引用されている。
「おおざっぱに言って、第一部(『ドラゴン・タトゥーの女』)はオーソドックスな密室もののミステリ、第二部(『火と戯れる女』)は警察小説・サスペンス、第三部(本書『眠れる女と狂卓の騎士』)はポリティカル・サスペンスと言えるだろう)(上p.489)
これはこのシリーズをコンパクトにまとめており、それぞれ毛並みの違う作品が興味を持続さているといってもいいだろう。

結論としてはミレニアム・シリーズはラーメンなのではないですかね。
もしあなたが繊細な懐石料理や高級フレンチ、あるいは独創的な創作料理を求めるのなら期待はずれに終わるかもしれない。
化調を使った料理なんぞ認めん!なんて人もいるかもしれないが、そこそこの値段でそれなりの満足が得られるという評価をする人が多いかも。
ハマって通い倒す人もいるかもしれないし、一度食べれば十分って人もいるだろうし、そこらへんは好みの問題かな。

さらに映画三作も。こちらはまとめて。






映像化にあたってはなんといってもリスベット役をどうするかに尽きるだろう。
キャスティングの段階ではいろいろ言われたようだが公開されると絶賛されたとのことだが、ありっちゃありかなぁ。もう少しぶっ飛んだ感じの方が良かったとも思うけど。

長い話をよくまとめたと思うものの全体的に特筆することもないかなぁというのが正直なところで。
原作の省略改変単純化はやむを得ないのだけれど、中途半端に残した部分なんかがかえって原作のアラを浮き立たせたかも。一方で一作目の最後のようにそのままでもいいのに変えてしまっているところなんかもあって。


なんで今ごろミレニアム・シリーズに取り掛かったかというとなんてったってデヴィッド・フィンチャーがリメイクするからなのですよね。一応目を通しておこうかと思ったら小説も映画も(半ば惰性で)完走。
日本では来年公開予定なのだが予告を見るとたまらんぜよって感じ。すんげえ楽しみ!リスベット役はルーニー・マーラー(『ソーシャル・ネットワーク』の冒頭でマークをフるエリカ役)か。大丈夫かしらん。







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佐藤太郎(仮)

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