直接体験


『リヴ・フォーエヴァー』はオアシスVSブラーを軸にブリット・ポップの隆盛を描いたドキュメンタリーであるが、ストーン・ローゼズの伝説的なライヴの証言から幕を開ける。
こういうのを見ちゃうと「全てはローゼズから始まった!」なんて風に思ってしまうのだが、80年代のインディーズ・シーンをきちんと追いかけていてローゼズのファーストをリアルタイムで聴いた人は、当初どういう反応を示していたのだろうか。すぐにエポックとなるバンドでありアルバムだと思ったのだろうか。ワン・オブ・ゼムだなと感じた人だっていたことだろう。



僕は78年生まれなので89年発売のローゼズのファーストをリアルタイムで聴いていなかったことは仕方ない。しかしセカンドは難産となり、結局94年にようやく発売となったので十分に間に合ったはずだが、実際に聴いたのはもう少し後のことだ。
当時の僕はビートルズを初め60年代の音楽ばかり聴いていた。「ロックなんぞ60年代のを聴いてりゃいいんだよ」なんてことを嘯いていたが、一番大きな理由は単に金がなかったことだ。金がないので買うCDは失敗したくない。そうなると、60年代の作品はだいたい評価が定まってるので多少の好みの問題はあってもハズレを掴まされる危険性は少ない。
今思えばあのころこそ同時代の音楽をちゃんと聴いておくべきだったんじゃという気もするが。

僕の歳でビートルズが好きだというとよく親の影響なんでしょ、と言われる。ところがこれは逆の話で、周りに洋楽なんぞ聴いてる人がまるでいなかったために何を聴いたらいいものか見当がつかず、とりあえずビートルズなら無難じゃね、ってなことで聴き始めたらすっかりはまってしまったのだった。

日本の「ビートルズ世代」の記憶が後からの刷り込みであったという指摘は多い。
ある人に言わせると「高校のクラスでビートルズをちゃんと聴いてるのなんて一人か二人しかいなかった」とのことである。
ここらへんのことは想像がつく。僕の親もビートルズ世代であるが、ビートルズを聴き始めて母に「これはジョンの曲、これはポール、これは二人で作った」とか言ってみても、それが意味すること自体がよくわからないようだった。さすがにレノン―マッカートニーを一人の人物だとまでは思ってなかったようだが、ジョンがヨーコと結婚せずに、あのような最後を迎えてなかったとしたらこれも少々怪しいかもしれない。
まぁ母の場合文化的に結構保守的なもので少しばかりズレてたのかもしれないが、母と同年齢の村上春樹(と考えると妙な気分なのだが)も、ビートルズはもっぱらラジオから流れてくるのを聴くばかりで、レコードを揃えたのはかなり時間がたってからのことだったということを書いていた。

こんな想像をしてみる。もし僕があと10年早く生まれていて、スミスをリアルタイムで聴いていたとしたらどんな反応をしていただろうか。
身を焦がすような思いをしながら聴いていたかもしれない。しかし不安もある。
「モリッシーなんて口の悪い長島茂雄だろ」とか「ちょwそのシャツ女ものじゃねーかよwwライラックの花とか意味不明なんですけどwww」なんてことになってたかもしれない。



この不安がさらに高まるのがボブ・ディランを聴くときだ。
ディランがエレキギターを持ったとき、フォーク・ファンは猛反発してブーイングを浴びせた。その中をギュインギュインとギターをひずませるディランは最高にカッコいいのだが、僕がこの場に居合わせたらどうだったのだろうか。
伝説的となっているのがロイヤル・アルバート・ホールで行われた66年のライヴだ。
客から「ユダ!」と野次られると、ディランは「お前の言うことなんて信じるか。お前は嘘つきだ」とやり返して「ライク・ア・ローリング・ストーン」を始める。
痺れる。全身総毛立つ。でも、もしかすると、僕はあの場で「ディランなんて商業主義に魂を売り渡した最低の奴だ」なんてことを思ったかもしれない(正直かなりその可能性は高かったような気がする)。



とにかくこのように、直接体験したからといってより正しい判断が下せるというものでもなく、またの時間が立てば立ったで記憶は嘘をつくこともあるのである。

僕にとって最も苦い体験なのがサイモン&ガーファンクルかもしれない。
60年代が好きとかいいつつサイモン&ガーファンクルには長らく手を出さなかった。
小学生のころ、音楽の授業でリコーダーをやらされたが、その課題曲が「コンドルは飛んでいく」であった。音楽の先生としてはよかれと思ったのだろうが、ここでサイモン&ガーファンクルのヴォーカル入りの「コンドルは飛んでいく」をかけたのである。このせいで僕はサイモン&ガーファンクルというのはアメリカだかイギリスだかのダークダックス的存在なのだ、という間違ったイメージがこびりついてしまったのである。
う~む、やっぱり第一印象ってのは大切なのですよね。

そういえばこの間ミシェル・ゴンドリー監督の『グリーン・ホーネット』をDVDで見ていたら、ブリットと劇団ひとカトーとが喧嘩を始める場面で「オレがバットマンでお前はロビンだ」という文脈で「オレはサイモンでお前はガーファンクルだ」なんて罵っていた。思わず笑ってしまったのだが、これってガーファンクルやその家族なんかが見たらどんな気持ちなんだろう。
ガーファンクルをコケにするネタってこれ以外にも昔からよく見た気がするんだけど、ここらへんも偏見に寄与してるんだろうなぁ。

今回の文章は911とはまるで関係ありませんが、ポール・サイモンが「サウンド・オブ・サイレンス」唄ってましたね。一瞬マケインがギター抱えて出てきたのかと思ったけど。



スカボロ・フェア



そしてエリザベス・マイ・ディア
「あんたはもう終わりなんだよ、愛しのエリザベスさんよ」と唄ってから20年以上か……




一周回ったところでおしまい。


プロフィール

佐藤太郎(仮)

Author:佐藤太郎(仮)
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