『キャピタリズム』

マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』




短くまとめるならばマイケル・ムーアがアメリカの
強欲資本主義に挑んだ作品、となるのだろう。
しかし彼がアメリカ的なものを徹底的にやりこめることを期待するなら、
その期待はいささか裏切られるかもしれない。

マイケル・ムーア(あるいはアメリカのリベラルの多く)に
特徴的なのは彼らは決して「反アメリカ」ではないということだ。
むしろ彼らは自分達は愛国者であり、アメリカに真の、あるべき姿を
取り戻させようという発想に立つ。

マイケル・ムーアは本作でアメリカの現状がいかに悲惨かを描き出す。
あたかもマルクスの『資本論』第一巻のように。
「ウィナー・テイク・オール」。カネのためなら
手段を選ばない奴ほど肥え太り、金持ちはひたすら金持ちになり、
そしてそれ以外の人間はみじめな生活を余儀なくされる。

しかしアメリカはずっとこうだったのではない。
50年代の繁栄を見てみろ。
F・D ルーズベルトの理想へ、憲法の理想へ立ち返れ、と訴える。

これらは過去のムーア作品からも当然予想される展開である。
本作の最大の特徴はキリスト教を持ち出すことだろう。
キリスト自身は資本主義を肯定しなかったのではないか。
ではなぜヨーロッパと比べてとりわけ宗教的とされる
アメリカでこんなひどい状況がまかり通るのか。

一見とっぴょうしもないようだが、これはもちろん
アメリカとのアナロジーである。
真なるものが歪められ偽者がはびこっている。
愛国者なら、キリスト者なら目覚めよ!となるのだ。

もちろんこれらは思想としてもあまりに我田引水がすぎて、
ある種の危うさを感じさせるものである。
そして、残念ながら映画としても必ずしも成功しているとは
いえない。

特に『華氏911』以降に顕著だがムーア作品の
最大の特徴ともいえるユーモアが薄れてきている。
おそらくはムーア自身の怒りや苛立ちが先走りすぎて
そこまで手が回らなくなってきているのだろう。

いくらかのユーモラスなシーンはあっても全体としては
「プロパガンダ」色(ムーアの作品はしばしそう非難されるし、
この批判は妥当である)が前景に出すぎてしまっている。

僕自身はムーアの怒りというものを共有するが、
それゆえにいささか残念という思いは禁じえなかった。

一方でアメリカ史や思想的に考えると面白いかもしれない。

例えば「終身雇用」や「年功序列型給与体系」というと
きわめて日本的と思う人がいるかもしれないが、
これらは第二次大戦後から70年代の前半くらいまで
(とりわけ50年代において)はアメリカの白人の多くが
享受してきたものでもある。
(もちろんこれは欺瞞の歴史でもあるのだが)

ゴリゴリの反共主義であるニクソンも
実は国内政策では、おそらくは今の民主党中道派よりも
リベラルであった。

これらの、いわゆるニューディール型システムが完全に
敗れ去ったのはレーガン時代以降であり、
現在の「アメリカ型システム」として連想される
経済・社会体制はたかだか30年の歴史しかない。
括弧つきの「自由」と私有財産への異常な執着も
この程度のものなのであるが、これらは今では完全に
「信仰」と化している。
ムーアがキリスト教を持ち出したのはこのためだろう。

ムーアがサンディカリズムに影響されているということを
指摘する人がいるが、本作を見ればさもありなんという感じである。
これが本当に現状へのオルタナティブになるのかといえば
(ムーアはそう示唆するが)僕自身は懐疑的である。

とはいえこの映画の最大のメッセージには完全に同意する。
それは「資本主義に対する民主主義の優位」である。

もちろん民衆は愚かで間違ったことをするのはしばしだ。
サブプライム問題等をあそこまで放置し、
デリバティブ等で危険をバカでかくしたという非難は最もであるが、
一方、あそこで「庶民感情」にまかせて金融機関に公的資金を
一切入れなければ今頃は大恐慌まっさなかだったろう。

「民主主義の優位」というのはなんでもかんでも
多数決で決めればいいということではない。
民主主義を成立させる諸条件を守るということだ。
正しい情報が得られない社会、
貧富の格差があまりに大きい社会、
平等な教育機会が与えられない社会、
これらの中で民主主義が機能するといえるのだろうか。

本作は、そのことを考えるにはいい機会になるかもしれない。

予告編



引用されたルーズベルトの演説
Second Bill of Rights


















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佐藤太郎(仮)

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