『大搾取!』

スティーブン・グリーンハウス著『大搾取!』





著者はニューヨーク・タイムズの記者。

短く言うなら「現代アメリカ残酷物語」である。
目次からいくつか引用してみよう。

酷使の現実
分単位で休憩時間を計測、解雇社員にゴミ漁りを奨励、
最低賃金は貧困ラインを下回る……


不満には恐怖で
安全軽視の工場で次々と事故が起こる。
声をあげた者に待っていたのは、ひどい濡れ衣だった。


これで内容はだいたい想像がつくと思う。

マイケル・ムーアの『キャピタリズム』の時にも書いたが、
グリーンハウスの主張も基本的には
「あるべきアメリカに帰れ」というものだ。

もちろんアメリカが初めからずっとすばらしい国だったのではない。
むしろ欺瞞の歴史であった。
一方でそこにはまぎれもない「理想」が根っこに刻み込まれている。
だからこそ多くの人が「アメリカ」に惹きつけられるのだ。

その「理想」に最も近づいたのはいつだったのだろうか。
やはりF.D ルーズヴェルトの時代であったのだろう。
大恐慌とはまた「アメリカ残酷物語」に終止符を打とうとするものでもあった。

「ニューディール」を現在から振り返ると
最も大切なのは具体的政策よりもその精神である。
このニューディールの精神は多くのアメリカ人が
ある時期までは共有するものであった。
本書でも1974年に「エリサ法」という
労働者よりの年金関連法律を共和党(!)が成立させていることが
引かれている。

その終焉を決定づけたのはやはりレーガンだ。
誤解のないように言っておくと航空に関する「規制緩和」を
始めたのはカーターである。
70年代終わりには「ケインズ主義」(あくまで括弧つき)の
行き詰まりは明らかとなっていた。

レーガンが行ったのはいずれも括弧つきの
「自由」、「資本主義」、「私有財産」への思いを
「信仰」にまで高めたことである。
組合潰しはお墨付きをもらい、どんな手を使おうが
1セントでも多く手にする者が正義となる。

80年代はブルーカラーがひたすら攻撃にさらされ
(それは現在でも続いている)90年代以降は
それがホワイトカラーにまで広がった。
その実態は本書で余すところ無く描かれる。

「宗教は人民のアヘン」と言ったのはマルクスであるが
これはまさに慧眼である。
強者による弱者叩き、弱者による弱者叩き。
富は上位わずか1パーセントが集中的に簒奪する。

なぜ数にまさるはずの労働者たちは一致団結できないのか。
答えは「信仰」である。
不合理であろうが理性に反しようが人道に反しようが、
「アメリカは誰にでも開かれた国」であり、
富める者は「アメリカン・ドリーム」の体現者である、という。

最近話題となるティーパーティがわかりやすい。
その根底の一つは明らかに人種差別である。
レーガン時代から散々言われた「福祉の女王」と聞いて
どんな人種を連想するだろうか?

そしてもう一つが「アメリカ」への歪んだ信仰である。
彼らにすれば「オバマは社会主義者にしてヒトラー」となってしまう。
しかし集会の映像を見れば彼らの多くは
金持ちには見えない。
その人々が度外れた大富豪のために「反税金」キャンペーンに
参加しているのである。

本書にはまた現状への代替案も示されている。
例えば現代アメリカの悪の象徴ともいえる
ウォルマート(本書でも大いに攻撃されている)の
ライバルであるコストコは比較的高い賃金と手厚い社会保障でも
十分に利益が出ている。
さらにラディカルなアウトドア用品メーカーのパタゴニア
(サーフィンの時間!ボランティア休暇!)。

もちろんこれらの企業がいい形で生き残れるかは
ウォール街からのプレッシャーとの戦いであろう
(ちなみにパタゴニアは非上場)。

彼らは投資活動そのものを否定しているのではないだろう。
もちろん資本主義も。
ただ最低限の理性を働かせろ、というのが答えなのだろう。

本書にもあるようにそもそも労働者を締め上げることは
必ずしも利益には通じない。
労働者の移動率が高いと研修に時間と金がとられ
従業員の会社への忠誠心もモラルも低いものとなる。
そして潜在的消費もシュリンクしていく。
少し考えればすぐに想像がつきそうなものだが
ウォール街の住人とそのプレッシャーに屈する人々は
この現実を直視したくはないのだ。

序にセオドア・ルーズヴェルトの言葉が引かれている。

「われわれが目指すべきは、繁栄を促進すること。
しかるのちに、その繁栄が広く行き渡るようにすることである」
(p.5)

言うまでも無く、日本も他人事ではないが、
残念ながら繁栄も目指さず、それどころか
繁栄を奪い取ろうというのが現状の日本の
エスタブリッシュメントの総意であるようなのだが……

FDRのSecond Bill of Rights Speech Footage を
もう一度貼っておく。ここも参照。



「ティーパティ」の映像








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