『ベンジャミン・フランクリン、アメリカ人になる』

ゴードン・S・ウッド著 『ベンジャミン・フランクリン、アメリカ人になる』




「歴史上最もアメリカ人らしいアメリカ人とは誰か」、そんなアンケートをとったなら、おそらくはベンジャミン・フランクリンが一位の座に収まるのではないか。

貧しい生まれから身を起こし実業家として成功する。発明家にして外交官、政治家という万能の人であり、ユーモア溢れる自伝を残し、勤勉の大切さを説く実際家。
フランクリンの成功物語はアメリカの理想となるロール・モデルであると同時に反発も招く。例えばポーはフランクリンを「詩人以外ならすべて」と評したそうだが、もちろんこれは皮相なアメリカ文化の象徴としてのフランクリンへの揶揄である。また左翼的な人間にとってはアメリカにおける資本主義の権化でもある。アメリカ文学における最重要作品の一つであるフィッツジェラルドの『グレート・ギャッツビー』はアメリカン・ドリームの欺瞞をえぐりだした小説であるが、アメリカン・ドリームに裏切られる主人公ジェイムズ・ギャッツの幼少期はフランクリンのパロディである。

当然ながら、これだけ巨大な存在ともなると、それは実像の反映というよりも神話的潤色がなされていると考えるべきであろう。
本書はそのようなフランクリン像の「イコノクラスティック」(訳者あとがき)な伝記である。

本書に描かれる一つひとつの出来事は必ずしもセンセーショナルな新事実というわけではないだろう。
ピューリタンの国アメリカの象徴たるフランクリンが私生児をもうけ、その子どもを引き取って溺愛して育てたこと。長らく王党派であったことなどは他の伝記でもしばし指摘されることである。
従来の伝記がアメリカの象徴的人物であるフランクリンのイメージから外れるような出来事を軽視しがちであったのに対し、本書はありのままのフランクリンをあぶりだす。

フランクリンはペンシルヴァニアを王領地植民地にしてもらうため長くイギリスに滞在するが、この間にアメリカの世論の動向にすっかり疎くなり、印紙法への反発やボストン茶会事件の終息方法などを完全に読み違えていたことなどが興味深い。
フランクリンといえば有能な政治家にして外交官というイメージが強かったが、この時期は必ずしもそうとはいえばかったのである。またこのころの行動がもとで、独立派に転じた後もずっと疑惑の目で彼のことを見ていた人は少なくなかったのだという。

フランクリンはすっかりヨーロッパになじんでしまい、フランスへ渡ったのもその流れからであった。アメリカ独立にあたってフランクリンがフランスではたした役割というのはもちろん大きいのであるが、著名なアメリカ人であるフランクリンはフランス社交界で寵児となり、そのことを快く思わない人々も多かったという。アメリカ憲法に高官が外国の君主などから贈り物をもらうのを禁ずる規定があるのはこのころのフランクリンの行動のせいだという説もあるそうだ。

フランクリンについて「神話的潤色」がなされていると書いたが、その点で最も目をひかれたのは、最初にフランクリンを神話化したのはフランス人であったのだという部分である。
フランス革命を間近に控えたフランス人にとっては、フランクリンのような人物こそが一つのロール・モデルとして写ったのであろう。
フランクリンはもちろん生前から巨大な存在ではあったのだが、その分敵も多く、彼の独立派への転向をめぐっては王党派、独立派の双方から疑惑の視線を向けられ続けていた。

フランスで作られたフランクリン神話がアメリカへと逆輸入され、俗流化されて流布し、フランクリンこそがアメリカを象徴する人物だというイメージが自明視されるようになっていったのだという。

このようなことはなにもアメリカに限ったことではなく、「神話」の持つ普遍的必然性なのかもしれない。





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