『メタフィジカル・クラブ』

ルイ・メナンド著 『メタフィジカル・クラブ  米国の100年の精神史』


アメリカで生まれ、発展したプラグマティズムの中心的人物であるオリヴァー・ウェンデル・ホウムズ・ジュニア、ウィリアム・ジェイムズ、チャールズ・サンダー・パース、そしてやや年少のジョン・デューイの四人の軌跡を辿る。

プラグマティズムというのは簡潔に説明するのはなかなか難しい。「実用主義」や「道具主義」などとも訳される。ホウムズ、ジェイムズ、パースらによって会合がもたれた「メタフィジカル・クラブ」とはもちろん「形而上学」への皮肉であるが、これこそがその「定義」をよく表しているのかもしれない。
著者はこう説明する。「プラグマティズムとは、人びとが考える方法――アイディアを得て、信念を形成し、決定を下す方法についての一つの説明である」(p.351)。そしてデューイの考えとして次のような例をあげる。「一つの観念は、たとえば一個のフォークよりも形而上学的な能力においてすぐれているわけではない。フォークがスープを食するのに不適切であることがわかったとき、失敗の原因となる性質はフォークにあるのか、それともスープにあるのかという議論はほとんど無意味になる。スプーンに手を伸ばせばいいだけの話だからである」(p.361)。
「定義」と書いたが、絶対的な「定義」を求めないことこそがプラグマティズムといえるのかもしれない。現実にいかに対応するか、それこそが求められるのであって、必要とされるのは形而上学的議論ではない。

著者はホウムズ、ジェイムズらの南北戦争体験に注目する。ホウムズは信念を持って北軍に加わったが、過酷な現実を前にする。ジェイムズは親の介入もあって北軍に加わることはなかった。この出来事は彼の胸にひっかかりとして残り続けた。これらの経験からプラグマティズムの一つの特徴であるイデオロギーの否定、寛容が導かれていく。

一方で、このような形の思想をとると、当人たちには思いも寄らない結果ともなる。
ホウムズは最高裁判事として司法権の濫用への懐疑によって進歩派から讃えられるが、当人は政治的には必ずしも進歩派ではなかった。
プラグマティズムの絶頂期であった1898年から1917年は「金融資本主義システム」が採用され、米西戦争など帝国主義的膨張の時代でもあり、それがあたかもプラグマティズムにかなうもののような捉え方もされたが、ジェイムズはそのような気質とは相容れなかった。
稀代の奇人でもあるパースは自身をプラグマティズムという用語で括られることを拒否し、デューイは今風にいえばリベラル左派ともいえる政治信条であったが、イデオロギーの時代には激しい批判にもさらされた。


プラグマティズムは「誤りが活用されうる社会的な時空を創造することだった」(p.440)というように自由や寛容を擁護するものである。
「ホウムズ、ジェイムズ、パース、デューイは、思想や原理原則、信念を生身の人間に担いうるレヴェルにまで引き下げることを要求した。というのも物事の抽象化に隠されている暴力を、彼らは回避したかったからである。このことは、南北戦争が彼らに与えた教訓の一つである。彼らの哲学が支持しようと意図していた政治システムは、民主主義だった。そして民主主義とは、彼らが理解する限り、正しい人びとだけでなく、間違いを犯した人びとに対しても発言のチャンスを与えようとするシステムである。民主主義が少数者と反対意見に権利を与えようとするのも、最終的には多数者の利益が優位をとるためである。」(p.441)

このような思想は、現状肯定の保守的な価値観にくみしてしまうことにもなりかねない。著者は「もしキング牧師が、ラインホルド・ニーバーやマハトマ・ガンディーよりも、デューイやホウムズからインスピレーションを受け取っていたとしたら、彼が率いた運動が、同じだけのことをなしえたかどうかは疑わしい」(p.442)ともしている。

忘れ去られかけていたプラグマティズムは、冷戦の終焉とともに再び注目を浴びるようになったという。
「このような十九世紀的な考え方が、二十一世紀を生きる人間の役に実際に立つのかは、まだ定かではない」(pp.442-443)ともあるが、「彼らや彼らのものの考え方に対し、気味が悪いほどの親近性を、今日の私たちが見出しうるように見えるのも事実である」(p.443)。
もちろんこれはアメリカのみに限ったことではないだろう。

本書はアメリカ思想史を考えるうえで非常に有益であろうが、それ以外にも学び取れるところは多いようにも思えた。



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佐藤太郎(仮)

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