『これが見納め』

ダグラス・アダムス / マーク・カーワディン著 『これが見納め』





『銀河ヒッチハイク・ガイド』のSF作家ダグラス・アダムズが動物学者マーク・カーワディンとともに絶滅の危機に瀕している動物を見に行く旅行記。

非常に面白かった。なんといってもアダムズの文体がこれ以上なく内容とマッチしている。
基本的にはユーモラスで、時に毒をきかせ、時にセンチメンタルに。

「四羽のニワトリと、狭い船上で長時間いっしょに過ごすのは居心地のいいものではない。なにしろ向こうは、根深くも恐るべき疑惑を抱いてこっちをにらんでいて、こちらにはその疑惑を晴らす資格がまるでないのだ」という箇所を引用して、リチャード・ドーキンスは「P・G・ウッドハウス以来、こんな文章を書いたものがほかにいただろうか」としている。

一番笑ってしまったのは中国にヨウスコウイルカを見つけに行ったさいのこんなところ。
どこに行っても「エーデルワイスや「グリーンスリーヴズ」などがエンドレスに流れており、「ふつう演奏しているのはリチャード・クレイダーマンだ。いったいだれがリチャード・クレイダーマンのレコードなんか買うのかと思ったことのある人、その答えは中国人です。そして中国人は十億人以上もいるのだ」(p.224)

もちろん動物たちの置かれている環境は笑いごとではない。
エキセントリックに思える「フリーランスカカポ捜索員」や鳥類学者のリチャード・ルイス(運転中は前を見て!)などは、そのひたむきさゆえに滑稽さをまとってしまっている。彼らにそうさせるのは、ドードー鳥をなんの意味もなく最後の一羽まで殴り殺して絶滅させてしまうような人間たちなのである。

「ドードーの滅亡滅亡で人間は以前より悲しみを知り、以前より賢くなったと言うのは簡単だが、数々の証拠から見るかぎり、人間はたんに悲しみを知り、知識を仕入れただけだったようだ」(p.302)

「強制収容所」に入れられた地球上に残された最後の一本のコーヒーノキにまつわるエピソードは、あたかも寓話のように思えてしまうが、これがグロテスクな事実なのである。
そしてダグラスは最後を古代ローマの「シビラの書」で本書を閉じる。大切なものを失って初めてそれに気づく、そのことを人間はとっくの昔にわかっていたはずなのに。

カーワディンは「マークによる結びの言葉」で、なぜ希少動物を保護しなければならないかを説いている。
  
しかしなぜそんなことを気にするのか。ヨウスコウイルカやカカポやキタシロサイなどの種が、科学者のノートのなかにしか存在しなくなったとして、それが問題だというのか。
 答えはイエスだ。全ての動植物は、環境を構成する必須の要素である。コモドオオトカゲでさえ、島の微妙な生態系を保つうえで重要な役割を果たしている。かれらが姿を消せば、ほかの多くの種も消滅する可能性が高い。動植物の保護は、人類の生き残りのためにも大いに望ましいことだ。動植物は、人の生存に欠かせない薬品や食料を提供し、作物の受粉をにない、多くの産業に重要な原材料をもたらしている。ただ皮肉なのは、人が最も必要としているのは大きくて美しい生物ではなく、醜くてぱっとしない生物の場合が多いということだ。
 (中略)
 最後に、理由はもうひとつある。これだけでほかの理由は必要ないと思う。これほど多くの人々が、サイやインコやカカポやイルカなどの保護に打ち込んでいるのは、この理由があればこそだ。それはきわめて単純な理由――彼らがいなくなったら、世界はそれだけ貧しく、暗く、さびしい場所になってしまうからなのである
。(pp.315-316)

原著はBBCのラジオ番組を1990年に書籍化したもの。その後も版を重ねている。訳書には2009年版のドーキンスの序文も収録され、そこではなぜか削除されていたアダムズのまえがきも納められている。さらに、取り上げた動物のその後が注としてあり、これはカーワディンが目を通してチェックしたとのことである。
訳者あとがきによれば、本書をアダムズの最高傑作と呼ぶ人もいるそうだが、それも納得の面白さであった。続編が読みたいところだが、残念ながらアダムズは2001年に49歳で亡くなっている。





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佐藤太郎(仮)

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