連合赤軍、スタヴローギン

ちょっと思うところがあってというほどのことでもないけれど、いつか読もうと思いつつまだだった『十六の墓標』(永田洋子著 )『あさま山荘1972』(坂口弘著)『連合赤軍少年A』(加藤倫教著)といった連合赤軍関係者の書いた本、ついでにといってはなんだが『日本赤軍私史』(重信房子著)などを何冊か目を通してみた。
 

二つの理由で読んでいて気が重くなる。
一つ目はそのあまりに空疎な言葉である。新左翼独特の言い回しや言葉使いも辛いが、そもそも彼らは何を目指していたのだろうか。現状に危機感を抱き、何かを変えたいと思っていたことはわかった。では具体的に一体何をどうしたいのかというのがまるで見えてこない。

「世界に出てきて、「日本をどのような社会に変えたいのか?」と問われるたびに十分に答えきれずにいた」(重信 p.198)とあるが、そんなことで武器を取りなさんなっての。
日本にやって来て赤軍派と会ったPFLPのメンバーは、「なぜ日本で武装闘争を急ぐ必要があるのか? 多様な闘いや発言の合法的条件がある日本で、武装闘争は人民の望むことなのだろうか?」 (重信 p.100)というもっもな疑問を抱くのだが、当時はこの言葉を重く受け止めることはできなかったのだろう。

とりわけ連合赤軍が山に入ってからというのはもう何もかもが滅茶苦茶である。自分を「共産主義化」するだの「総括」、「革命戦士」、「敗北死」などもう出来の悪い冗談としか思えない。

気が重くなる二つ目の理由は、この空疎な言葉によって大量の命が奪われたことだ。
仮に連合赤軍に対する知識を一切持っていないとして、山岳ベース事件を詳細に描いた文章を小説として読まされたら、「登場人物の言動があまりに不合理、心理描写にリアリティのかけらもない」という感想を抱いたかもしれない。とりわけ森と永田の「結婚」のくだりなど「こんなのありえねーよ」と思ったことだろう。しかしこれは現実に起こったのである。


文学作品が「予言の書」となることがあるが、ドストエフスキーの『悪霊』は中でも別格といえるだろう。実際にあった事件を題材にとった革命家グループ内部の殺人と崩壊を描いたこの作品は、ソ連で社会主義の名の下に何が起こるのかを予言したともされ、小説の発表から100年目に起きた連合赤軍事件もまた予言されていたかのようであった。

では、連合赤軍においてスタヴローギンは誰だったのだろうか。
スタヴローギンと同様縊死した森だろうか、あるいは「魔女」とも罵られた永田だろうか、それとも永田をレイプした川島豪だろうか(「私は、今でも固く信じているが、川島氏を除く革命左派メンバーは本来、穏健な人間で、川島氏が武装闘争を始めなければ、決してこのような闘争に関わることはなかったはずである」 坂口 「続」pp.306-307)。
これらの人物は、スタヴローギンと比べると、あまりに小さいように思えた。

そう思えたのだが、思い返してみると、『悪霊』を初めて読んだ時、そこに描かれたスタヴローギンについて、少々拍子抜けしたのではなかったか。
「文学史上最も深刻な人物」ともされるスタヴローギンが、どれほどの「活躍」をするのかと期待してページを繰ったのだが、実は作品の中でそれほどの「活躍」はしていないのであった。「スタヴローギンの告白」が削られたままだったら、なおさらその思いは強くなっていただろう。
スタヴローキンは周囲から期待を集め、カリスマ視される。これはスタヴローキンの実像を反映してというより、「期待のインフレ」をスタヴローギンが利用した結果のように思える。
「拍子抜け」したのは、スタヴローキンは悪魔的人物ではあれ悪魔そのものではなかったからだった。

しかし、これこそがまさに「予言の書」たるところなのかもしれない。人を操るのは何も悪魔のみなのではない。卑小な悪魔的人物によっても、人は信じがたい行動をとらされてしまうものなのだ。
そう考えると、改めてドストエフスキーの凄さというの浮かんでくるように思える。


『悪霊』ったら江川卓訳になじんでいるんだけど、亀山郁夫新訳はどんなものなのかな。久しぶりに読み返してみるべきなのだろうか。




それにしても若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』を見たあとだと、あの俳優によって脳内再生されてしまうなあ。遠山美枝子を坂井真紀がやると知った時には「と、歳が……」と思ったんだけど、今じゃ完全に遠山は坂井の顔になってしまっている。






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