『反原発の思想史』

絓秀実著 『反原発の思想史』




1954年の「第五福竜丸事件」に始まる日本の「反原発」(広島・長崎への原爆投下からではないことに注目)の精神史を、「暫定的な、おわり」として「素人の乱」までを概観する。
個人的には戦後文化史(とりわけ70年代から90年代にかけて)の一断面としての部分に目がいくことが多かった。

ヒッピーがニューエイジに流れ込むのは当然の帰結にしても、かつての過激派までもがそこへ行き着くとはどういうことだったのか、松岡正剛の例などから探る。

1967年夏のヴェトナム反戦運動を取材した『ヤング・ラディカルズ』(原著は68年)のケネス・ケニストンの見方として「ヒッピーと新左翼(ラディカルズ)の差異を認めながらも、むしろその「脱近代的行動様式」という両者の共通性を強調している」(p.150)という部分があるけど、こないだ感想を書いたウルフの『ザ・ヒッピー』(こちらも原著は68年)では「ヒッピーに熱中したアメリカ国民の中で、ラジカルな左翼主義者ほどヒッピーによって挫折感を味わった者はないだろう」となっていたが。

「文化史」的観点からすると、本書の影の主役は津村喬かもしれない。『われらの内なる差別』などで「入管闘争」の火付け役となるが、吉本隆明から「差別を食いものにしている」との批判を浴びる。津村はその後、病弱だった高校時代に出会ったヨガや太極拳の普及者として知られ、反原発運動にもコミットしていく。
80年代中ごろには、浅田彰の『逃走論』について、「明晰さ認めつつも、その「逃走」に出口がないこと、したがって、それが高度資本主義社会のイデオロギーに堕してしまう」(p.164)というまっとうな評価をするのだが、「当然のことながら、津村の批判は無視された」。
浅田が「左旋回」していくのはこの批判からではなく、85年に「ガタリが日本を訪れた時の東京・山谷での活動家を中心とした討議において、浅田の日本の左派へのシニカルな批判を、ガタリがとがめて以降だと推測される」(p.165)としている。
もっとも津村が無視されたのは、「気功やタオイズムを称揚するニューエイジ的な文脈にあった。論壇ジャーナリズムのメインストリームでは、ニューエイジ的なものは、カルト臭がふんぷんとする、いかがわしい思想と見なされていた」(p.165)ということが大きかったようだ。

「ニューアカ」の代表格といえば浅田と中沢新一である。とりわけ中沢やその影響下にあった人たちはニューエイジと親和的であったが(「中沢の存在は、ニューアカデミズムの時代が、実は、アメリカを中心としたニューエイジの時代の日本的ヴァリエーションであることを証明している」p.163)、また同時に、「カウンター的サブカル運動」であるニューエイジを受けての中沢の神秘主義は「な~んちゃって」(p.171)という雰囲気もまとっていた。とはいえ、新左翼の理論家からニューエイジ、そして陰謀論へと変貌をとげていった太田竜の例などからも、その「な~んちゃって」をどこまで真に受けるか(逆にいえばニューエイジ的なものをどこまで真に受けていたのか)という線引きは微妙になってくる。これはもちろんオウム真理教をどう評価したかという問題にもつながってくることだろう。

80年代はニューアカの時代であり、また「宝島文化」の時代でもある。津村も反原発本などで、実はこの宝島文化圏の人間であった。後に『ゴーマニズム宣言』へとつながる呉智英や浅羽通明は津村的な問題意識、あるいは「PC(ポリティカリ・コレクトネス)」的なものを揶揄、批判するが、呉や浅羽もまた宝島文化圏の人間である。
ニューエイジ的色彩も強く、左派的な主張も取り入れていた「宝島」は次第に変化していき、90年になると「宝島30」という「保守系雑誌」の刊行にまでいたる。ここらへんは社会全体の保守化・右傾化の反映というより、「宝島」独特の「何でもアリ」状態と考えた方がいいのであろう。
有名な「別冊宝島」の「80年代の正体!」の執筆者には、呉や浅羽とともに津村もいるのである。
「宝島」の成り立ちにおいて、「音楽を中心とした総合的な雑誌「宝島」という、「アメリカかぶれ」のブランドを買収したところに、別冊宝島を含めた「宝島文化」が成立する条件もあった」(p.255)という「宝島」の出自といったあたりは、僕が無知なだけかもしれないが意外と注目されていないかもしれない。

さらにこの後90年代に入ると、似たような立ち位置にありながらも「ネットウヨク」に回収されていく「ドブネズミ」と左翼からの公認を受ける「だめ連」との比較へとつながっていく。
本書には「ネットウヨクの相当部分は反原発である」(p.328)という根拠のわからない断言なんかもあったりする。ここでの記述ではどうも小林よしのりの読者イコール「ネットウヨク」という捉え方のように見えてしまうが、両者は必ずしもイコールではないだろうし、実際「反原発は左翼」とか「出た、放射脳w」みたいなことを言ってるネットウヨなんてうじゃうじゃいると思うのだが。こういうところを読むと、本書におけるこのような図式をどう受け取るかは微妙なようにも思えてきてしまうが。。

ただ「80年代的なもの」に対して、世代的(78年生まれ)にアンビヴァレントな感情を持ち、それなりに興味もあるけど詳しいわけではない人間からすると、良くも悪くも「こういう感じだったんだろうなぁ」という印象は受ける。松岡の工作舎がある時期は「秘密結社」めいていたり、その後の「遊」や自身の商業戦略。また広瀬隆(こちらも「宝島文化」の人だ)の「カリスマ」っぷりなんかの記述を読むとね。

本題の「反原発の思想史」という点では、反原発を唱えていた人の多くに宮沢賢治の影響があることはよく指摘されている。本書でも賢治の受容の歴史について多く割かれている。
高木仁三郎も賢治から強く影響を受けた一人だが、その高木が80年代前半にはニューエイジ的終末論を否定する立場にいたのが、86年のチェルノブイリ事故の時には、「チェルノブイリ」とはニガヨモギのことであり、ここから「ヨハネの黙示録」へとつなげるような終末論的な発言をしてしまっているところにも注目できる。
ただ高木も含む「反原発の思想」の担い手の多くが毛沢東思想(の「誤読」)からの影響を強く受けているというあたりは反発、反論なんかもありそうな気もするけど。


本書は全体としては「いかにも絓秀実」という印象も強い。僕は絓はあまり肌に合わず(本書でも小熊英二への否定的評価が出てくるが、個人的には絓的な「1968年」への捉え方よりも小熊的な捉え方のほうがしっくりくる)、「あぁ、また言ってるよ」というようなところも結構ある。
その中でもとりわけ、「反資本主義」の姿勢を崩さず隠さないというのは潔いといえばいいのかもしれないが、「ついていけない」と感じる人も多いだろう。
例えばこんな箇所。

元来吉岡斉などの「脱」原発論者の主張も、日本の原発推進政策を「社会主義的」と批判する一方、「脱」原発の方向を、資本主義的(新)自由主義の進捗に求めていた(『新版 原子力の社会史』など参照)。しかし、それは格差・貧困・失業の増大に帰結していく。「脱」原発と新自由主義は共犯関係なのだ。(pp.336-337)

ここを読んで「うん、納得」と思う人がどれだけいるだろうか。とりあえず絓が「新自由主義」が嫌いということはわかるが、あとは……なんなんでしょうか。

ちなみにこの吉岡の原発に対する見方はこちらのインタビューで簡潔にわかる。他にも福島第一原発事故の前に出されていた『原発と日本の未来』でコンパクトにまとめられている。
ざっくり言ってしまえば、原発とは「クローニーキャピタリズムの亜種だ」(という言い方を吉岡がしているのではなく、僕が勝手にそう理解しているだけだが)ということだ。
原発産業というのは「えこひいき」があって始めて成立するものであり(先の引用の「社会主義的」というのは、目標をあらかじめ作ったうえでそこに結果をあてはめていくということ。原発の増加の仕方が計画的であることを「社会主義的」としていた)、原発産業は80年代には世界的にもジリ貧状態になっていたのである。「地球温暖化対策」としての原発推進とは、原発業界による一発逆転を狙ったものであり、一部の環境保護団体などは見事それに踊らされてしまい、「化石燃料を使うくらいなら原発のほうがマシ」という考えを植えつけられてしまった。

しばし「反原発派」は「経済成長はいらないから原発はいらない」というロジックを用いる。これではその裏返しの「経済成長が必要だから原発は必要」というロジックに勝てないだろう。
広く支持を集めるためには吉岡のような主張がいかにヌルく見えようとも、「原発は経済成長に寄与などしていない」ということを全面に出すべきではないだろうか。

「発送電の分離」や「電力の自由化」を「新自由主義的」と警戒するのはわからなくもないけれど(エンロンの絡んだカリフォルニアの電力危機の時は僕もそう思っていた)、だからといって「ミソもクソも同じ」ということでは、結局何も変えられないってことになってしまうんじゃないのかなぁと思うのですが。


日本における原発の歴史という点ではやはり吉岡の『原子力の社会史』や武田徹の『「核」論』あたりをまず押さえておくべきかな。
本書にも独自の視点などもあり、面白く読めるところも多いと思うが、それはあくまで文化史的な方向でという印象が強かった。




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