ゴダールとモギケン

ミシェル・ヴィアネイ著 『気狂いゴダール  ルポルタージュ:現場のゴダール』




図書館で見かけて「衝動借り」してしまった。

『男性・女性』の製作過程を中心に、その前日談やゴダールの周辺人物への取材も含む「ルポルタージュ」。
原著の刊行は67年(邦訳は76年)、ある意味ではゴダールがもっともゴダール的であった時代の記録といえるかもしれない。現在読むと、ゴダールは自らの「ゴダールっぽさ」を意識して演じているように見えなくもないし、著者は著者でさらにそれを強化する書き方をしているようにも思える。
本書ではゴダールをジャン=リュックではなくエドモンとして登場させるが、他はほぼ実名であるのでこれに意味があるのかという気もしてしまうのだが、これはルポルタージュであると同時に「フィクション」(と著者はしている)であることの表明であろう。ここらへんのゴダールと著者の虚実入り混じった振る舞いというのもいかにもゴダールという感じもしてくるという。

この予告だけでもうたまらんって感じ。




今読んで面白いかといえば微妙であることも事実だが、それでもなかなかに興味深いところもあった。
ゴダールのほうはアンナ・カリーナとの別れをまだ引きずっているようだが、アンナのほうはかなりサバサバした感じである(ここらへんのアンナの雰囲気は四方田犬彦著『ゴダールと女たち』にあったアンナ・カリーナへのインタビューからも窺える)。

どこまで信用できるかはさておき、自伝的な話もいくつかしている。
ゴダールはスイスでダム工事に従事した。「スコップやつるはしを握った」りして金を貯め、『コンクリート作業』を撮り、「建設会社に売りつけたら、けっこう、パリでなんとか一年暮らしていけるくらいの金になったよ」。

輝ける才能の一端が窺える……のかな。



ということで久しぶりにパリに戻り、「カイエ・デュ・シネマ」の面々と再会する。するとこう言われたそうだ。「おまえ、もうろくしたな」。
「そうなんだ。よく言われたよ、本当の映画ってのはヒッチコックとロッセリーニだ、まず演出なんだ、って。それ以前は演出がどういうことなのかも知らなかったんだ」(p.66)。
この頃のゴダールってこういう感じだったんでしょうね。批評でも創作でも完全にトリュフォーの後塵を拝していたわけで、それが後々にを尾を引いているような気もする。

ゴダールといえば逆立ちだが(?)、『軽蔑』撮影中にブリジット・バルドーのご機嫌をとった有名な話も出てくる。さらに訳注では66年に来日し、浜美枝宅を訪れた際のエピソードを書いた柴田駿の「逆立ちとキツネ」(「映画芸術」66年7月号)からの引用がある。「この夜は余程嬉しかったらしく、”子供のころ北京の京劇で訓練された(?)芸をお目にかけたい”と言って立ち上がった。そして披露した隠し芸が、なんと逆立ち歩き。周囲が呆然とするなかできまり悪そうに頭をかいた」(p.20)
根はテンションあがると逆立ちしちゃうような人なんですよ!


その『軽蔑』に俳優として参加したフリッツ・ラングはこう言っている。「あのゴダールって男は、自分が何をしたいかわかっているのかね?」

しかしジャン=ピエール・レオーにはゴダールはこう映っていた。「ゴダールのセカンド助監督について、どんなに嬉しかったか……なんていったらわかってもらえるかな……いや、あれはとても言葉じゃ言えませんよ。(中略)そうだ、レオナルド・ダ・ヴィンチの弟子を想像してみて下さい。絵具をとかしていると、レオナルドが来て色をみます。うん、よしそれだ!と言って、その絵具に筆を浸してくれたら、弟子はどんなに嬉しいでしょう……『気狂いピエロ』のとき、ぼくが探しまわったあげくにやっと見つけたアパルトマンをゴダールが使ってくれた時、その喜びを――自分がとかした絵具に師匠が筆を浸してくれた喜びを味わったんです!」(pp.87-88)。
泣けてきますね。この後二人(というかトリュフォーとの三角関係)がどうなるのかということを考えるとさらに。このころのレオーの様子は山田宏一さんの『友よ、映画よ』に詳しいし、レオーが味わうことになる苦悩は『ふたりのヌーヴェルヴァーグ』に描かれている。

『男性・女性』ではレオーは主演俳優として撮影に参加しているのだが、助監の癖が抜けずにゴダールが助監に悪態をついていると思わず反応してしまうところも微笑ましい。
レオーはこの作品の撮影後は、一日一食の生活を始め、この作品のギャラだけで秋までやっていくつもりだったようだ。「ほとんど人に会わないから、しゃべる習慣てものをなくしちゃったよ」と言っている。「ジャン=ピエールはいかにもその若い使徒といった感じだ」(p.270)。

ちなみにゴダールのこの作品の撮影前の経済状態は、「エトワール近くのホテルに住み、車一台とスーツを三着、持っている」だけであった。「ぼくの持っているものって、それだけなんだ」(p.33)。
その理由とは、「彼は所得税の申告を一度もしたことがない。知らなかったのだ」って、おいおい、お前はモギケンかい。
「知らなかったんだよ。今はだから、その何年かの滞納金を支払うために働いているようなものさ」とのことでありましたとさ。




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佐藤太郎(仮)

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