『魂の詩人パゾリーニ』

ニコ・ナルディーニ著 『魂の詩人パゾリーニ』





パゾリーニの従兄弟によるコンパクトな伝記。
本文140ページほどの小著なのであれがないこれはないというのは仕方がないとはいえ、では入門的な伝記なのかといえばある程度の予備知識を前提としているところもあったりする(例えばパゾリーニとモラヴィアが親友であったことを知らなければ二人が共同で山荘を建てたことが何の説明もなくいきなり出てくることにとまどうだろう)。

また日本では詩人としてよりもやはり映画監督としてのイメージが強いが、この点でも物足りなさを憶える読者も多いだろう。
パゾリーニは『甘い生活』に協力するなどフェリーニと一時は親密だったものの、その後は少々微妙な関係になった(のだったと思う)のだが、ここらへんのエピソードはなし。著者とフェリーニは友人であり、パゾリーニの死をフェリーニに伝えたのが著者であったことが記されているのでこのあたりは少しは掘り下げてもよかったのではないかという気になってしまう。
またベルトリッチ親子も名前が出るくらいで、詩人である父のアッティリオがパゾリーニの詩の「師匠」であったことが訳注で示されているが、息子のベルナルドへの言及はない。ベルナルド・ベルドリッチは弟子というかアシスタントのような感じでパゾリーニの映画作りに協力していて、ここらへんもいろいろ面白いエピソードがあったはずなので残念。

パゾリーニの母子関係に焦点を当ててはいるものの、『奇跡の丘』でマリア役を母が演じたことにも触れられていない。ここらへんはイタリア人にとってはあえて触れるまでもない常識ということなのかもしれないけど。
著者は母方の親戚にあたり、「私がまだ幼い頃、下痢で廊下を汚した時、たまたまそこを通ったピエル・パオロが汚物に足を踏み入れ、かんかんになって怒ったというエピソード」はあるものの、これ以外は血縁者ならではという部分もそれほどない。

著者はパゾリーニの死が右翼による謀殺だったのではないかという疑惑を一顧だにしない立場で、近年一部メディアによってその「疑惑」が蒸し返されることへの反論に割合からすると結構な紙数を割いているのだけれど、ここにページを割くのならもう少し他のエピソードを入れてくれてもいいんじゃないのかなあ、とも思ってしまった。

日本語で読めて生い立ちからその死までをざっと概観することはできるという点では貴重なものではあるけれど、パゾリーニをどう描くのかという点では消化不良であり、読者層をどこらへんに想定しているのかという点ではなんとも中途半端かな、というのが正直なところでありました。

本格的な伝記はイタリア語や英語ではいろいろ出ているんですがなかなか邦訳は出ないのですよね。


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