『カート・ヴォネガット』

巽孝之監修 伊藤優子編 『カート・ヴォネガット』




編者の伊藤優子氏は本書を作るにあたって「常に友人から、ヴォネガットのおススメを聞かれるので「これを参考に」と渡せる一冊が欲しかったから」だとしている。
全長編のあらすじやエッセイ等の解題、ヴォネガット名言集に人物相関図、家系図、年表などヴォネガット初心者には勉強になると同時に、英日の書誌目録もあるのでヴォネガットを本格的に研究したい人にとってもありがたいだろう。


ヴォネガットは1984年5月に来日、大江健三郎氏と対談を行っており、その模様が本書にも収録されている。ヴォネガット大江対談はNHKで放映されたそうだが、そういえばヴォネガットが亡くなった時に放送されたっけ? 多分されてないと思うのだけれどNHKはこういう貴重なものを結構たくさん死蔵してしまっているので困る。テープ自体が残っていない可能性もあるけど。
このヴォネガット来日時の様子についてはいろんな人が書いているのでそれなりに知っているつもりでいたのだが、今回本書を読んで驚いてしまったことがあった。84年2月にヴォネガットは睡眠薬を服用しての自殺未遂騒動を引き起こしている。このエピソード自体も知ってはいたのだが、自殺未遂が84年2月、来日が84年5月、つまり自殺未遂のわずか三ヵ月後に日本にやって来ていたのである。この二つの出来事がこれほど接近していたというのは今まで意識していなかった。そういう目でヴォネガット大江対談を読み返すと少し違った目で見てしまうような。

その他では吉田恭子氏の「トウモロコシとブタとライターズ・ワークショップ」が面白かった。ヴォネガットがアイオワ大学の創作科で教鞭を取り、ジョン・アーヴィングらを育てたことは有名であり、アイオワ大学の創作科自体が現在でも神話的な響きを持っている(今でも入るのは超難関!)。ここではヴォネガットのアイオワでの様子のみならずアイオワ大学創作科の歴史にも触れていて興味深い。アメリカの大学の創作科の雰囲気なんかもよくわかる。
「アイオワに住みたいか?」と聞かれたら微妙な気もしてしまうが、ここで描かれているアイオワ・シティになら二つ返事で飛びついてしまいたい。こういう文学都市って日本ではなかなかお目にはかかれないですよね。
アイオワ大学時代にヴォネガットと「関係」をもったロリー・ラックストロウは回想も出版している(あまり評判はよくないらしいが、まあこの手のものはね)。




アーヴィングのヴォネガットの思い出を語ったインタビューはこちら。やっぱりセミコロンについて話してる(笑)。『あの川のほとりで』でもヴォネガット当人を登場させて当時の経験を振り返ってますよね。




増田みのる氏はチャールズ・シールズによる「カート・ヴォネガットのはじめての本格的な伝記」であるAnd So It Goesの「徹底レヴュー」を行っている。
同書の序章によれば、シールズは2006年から伝記の執筆を申し入れ、当初は断られたものの手紙のやりとりをするうちにようやく許可を得、数年間ヴォネガット家の人々と同居するつもりで準備を開始する。ヴォネガットは電話魔ぶりを自作でも触れているが、シールズに対しても夜遅くに進捗状況をたずねる電話がよくかかってきたそうだ。しかしシールズが直接ヴォネッガトと会っての印象は、一般的なイメージとはやや異なっていたようだ。「戸口で別れを告げたとき、私の中でのカート・ヴォネガットの印象は、小説から受けていたヒューマニストにして家族の擁護者から、人生に幻滅した孤独な人物へと変わっていた」とのことである。シールズは2007年7月にヴォネガットの自宅で面会したが体調がすぐれない様子だった。また妻のジルと顔を合わせたがインタビューの申し込みは断られてしまう。そしてその数時間後、ヴォネガット自宅で転倒し頭部を強打、一ヶ月間昏睡状態に陥り、回復することなく亡くなってしまう。その後ジルへの取材の申し込みへの返事はなく、また手紙の引用も許可されなかった。

シールズの伝記はヴォネガットが少年時代を苦々しく振り返っていることや陰鬱な結婚生活を描き、またヴェトナム反戦運動に加わっていたはずがナパームを製造していたダウ・ケミカル社へ投資を行っていたことを明らかにするなどショッキングな内容も含まれていたが、おおむね高く評価された。
しかしヴォネガット家の人々からすればたまらないということで、長男のマーク(『エデン特急』のあのマークです)はシールズの本に反論する声明を出し、ダウ社への投資も否定している。シールズによれば「マークはヴォネガットの公式な伝記を刊行する準備をすすめているということ」だそうだ。

なにはともあれAnd So It Goesはぜひとも読まねばというところだが、翻訳が出るのかなあ。その後出された書簡集の方はどうなるのだろう……。遺族公認の伝記というのはSumnerのか。




またヴォネガットの前妻であるジェーンも80年代に回想録を出していますね。これも未読なんだけど、さすがに今更翻訳が出ることもないだろうしなあ。




出版記念のイベントの模様です。



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Author:佐藤太郎(仮)
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