『気象を操作したいと願った人間の歴史』

ジェイムズ・ロジャー・フレミング著 『気象を操作したいと願った人間の歴史』




人類にとって気象を操りたいというのは普遍的願望であろう。比喩的にではなく文字通りの意味で人々の生活を左右するものであり、大袈裟ではなく多くの生命に関わる問題である。そしてもし気象を操作できるようになれば、それは究極の軍事兵器ともなる。


第一章では古代ギリシャ・ローマ神話から現代の「三文小説」まで、気象の操作が様々な物語で扱われてきたことが紹介される。そして第二章以降では「レインメイカー」に「レインフェイカー」などなど動機も目的も様々な気象操作の試み(とその失敗)の歴史が語られる。
個人的に興味を引かれたのは第五章の「病的科学」である。

ノーベル化学賞も受賞し、ゼネラル・エレクトリック社の研究部門副主任も努めたアーヴィング・ラングミュアは、「病的科学とは、事実でない事柄についての科学である」という言葉を残している。しかしその彼はまた、「降雨技術界の大物であり、気象戦士の友」でもあった。
ラングミュアは界面化学の領域では「研究は堅実で、めざましくさえあり、彼の科学的直感は至極健康」であり、「見方によれば天才と言え、決していかさま師ではなかった」のであるが、「気象制御の研究では、うまくいかない科学が病的なものである可能性について警告した自説を、身をもって実証すること」になってしまう。
そしてこのラングミュアにはGEにおいて頼もしい物理学者の相方がいた。その名はバーナード・ヴォネガット。そう、あのカート・ヴォネガットの兄である。ラングミュアとバーナードは気象操作にのめりこみ、とりわけラングミュアはGE退社後も常軌を逸した情熱を傾けることになってしまう。
カート・ヴォネガットがGEの広報係として勤務し、その経験をもとにデビュー作『プレイヤー・ピアノ』を書いたのは有名な話であるが、カートを熱心にGEに誘ったのはバーナードである。

アーヴィング・ラングミュアは「室温で凍結する新しいタイプの水」のアイデアを、1930年代にGEの工場を訪れたH・G・ウェルズに提供していた。。ウェルズはそれを小説家することはなかったが、その話を耳にしたカート・ヴォネガットは『猫のゆりかご』における「アイス・ナイン」として活かすことになるのであったことが第一章で触れられている。バーナードの研究からも強い影響を受けた『猫のゆりかご』について、実在の気象学者のクレイグ・ボーレンは、「活字になっているもののなかでは「核形成についての最高の論考」とみなし、この小説にはそのテーマに関して「有史以来に書かれたどの物理学教科書」よりも多くの情報が含まれていると評し」ているそうである。


本書のエピグラフにはギリシャ神話のヘリオスの「中道こそが最も安全にして最善の道なのだ」という言葉が引かれている。
気象を操作したいという願いは過去の滑稽な歴史なのであろうか。いや、そうではなく、現在では「地球工学」や「気候エンジニア」という形でまた頭をもたげているようだ。地球温暖化への危機感の高まりがこれを後押ししている。「地球工学」や「気候エンジニア」は、地球を冷やすためとして成層圏を「汚染」させるというような荒唐無稽としか思えないアイデアを抱いているようだ。このような動きには二つの危険性がある。皮肉なことに、ブッシュ政権下で気候エンジニアを後押しする動きがあった。つまり気象が操作できるようになるのであらば温暖化対策など必要ないというロジックに利用されてしまうのである。そして何よりも、気候システムを「修理」できるとして、「太陽放射管理」などの「地球的手術」という「侵襲的手法」すら検討するという誇大妄想的傲慢さと、それがもたらすかもしれない破滅への想像力の欠如はおそろしいものがある。

著者は2009年にイギリスの海洋学者ジョン・シェパードと共に「地球工学の管理ついて連邦議会で証言」を行った。シェパードは「地球工学は魔法の弾丸ではない」と評したが、著者は「即座に、「弾丸ですらない」と思った」そうである。

著者はカントの『純粋理性批判」における「私は何を知りうるか」、「私は何をすべきか」、「私は何を望みうるか」をふまえ、それぞれに解答している。
そして「私は何を望みうるか」をこう締めくくっている。「恐怖と不安はわれわれを凍りつかせ、行動を起こすのを阻んだり度を越した行動をとらせたりする。われわれはそうした恐怖と不安の克服を望むことができる。みなが納得できる、合理的で、実用的で、公平で、効果的な気象の緩和と適応の中道の出現も、望むことができる」(p.456)。




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