「MONKEY」新創刊!

「柴田元幸責任編集」の文芸誌「モンキービジネス」の休刊から約二年、「MONKEY」として帰ってきました。





創刊号の特集は「青春のポール・オースター」。
注目はオースターが六十年代後半から七十年にかけて、年齢でいうと二十歳から二三歳にかけて書いていた「草稿と断片」だ。
オースターというと詩から小説に転じたというイメージが強かったのだが、この頃は小説に熱心に取組んでいたのであった。「デビュー作にはすべてがつまっている」なんてことも言われるが、オースターの場合デビュー以前のこの頃に後の小説家としてのアイデアの多くを育んでいたことが確認できる。初期の「ニューヨーク三部作」や『最後の物たちの国で』に直接活かされた部分もあれば、比較的最近の作品を連想させるところもある。

これは後に成功したことを知っているから言えることかもしれないが、この時にこれらの作品を完成させることができなかったのはオースターにとって幸いだったのではないだろうか、とも思う。「草稿と断片」からは才気を感じ取ることはできるが、同時にまた若いというか青いというか、生煮えの素材をそのまま出されたかのような印象もある。もしここでこれらを仕上げていたなら、そのゴツゴツと角ばった部分はそれはそれで魅力であっただろうとも思うものの、同時に貴重な素材を十分に活かすことなく消費してしまったのではないかという危惧も湧く。ifを言い出せばキリが無いが、七十年前後に小説家としてデビューしていたら、それなりに注目を浴びたのかもしれないが、また燃え尽きるのも早かったのではないかという気もしてしまう。


こんなふうに考えてしまったのは、今号のもう一つの目玉である村上春樹の架空の(?)講演、「職業としての小説家」の第一回、「小説家は寛容な人種なのか」を読んだせいかもしれない。

村上はここで、小説家というのは性格にはいろいろと問題のある人が多いのかもしれないが、他ジャンルからの参入者に関しては寛容なのではないか、としている。なぜなら、「小説というジャンルは、誰でも気が向けば簡単に参入できるプロレス・リングのようなもの」だからだ。そこは「かなりアバウト」に、誰にでも扉が開かれている。しかしまた「リングに上がるのは簡単でも、そこに長く留まり続けるのは簡単ではない」のである。

村上は批評家を「一般的に言って、小説家に比べて頭が良すぎるし、頭の回転が速すぎるのです」と言う。そのような「頭の回転の速い人々、聡明な人々」は「よく書けた」小説をものにしたとしても、「リングに長く留まることは、ごく少数の例外を別にして、ほとんどありませんでした」としている。

「極端な言い方をするなら、「小説家とは、不必要なことをあえて必要とする人種である」と定義してしまえるのかもしれません」とし、「基本的には「鈍臭い」作業です」とまで言う。
地味で迂遠で「 鈍臭い」作業を、日々丹念に積み重ねていくことができる人間だけが小説というリングに長く留まることができるのである。

オースターはインタビューで当時をふり返り、「問題は、私の野心が大きすぎたということだと思う。もっと知恵が回っていたら、もう少し小さい形式のなかで、いろんなことをマスターしてから、もっと大きい形式に進んだだろうね。でも私は、全部を一度にやりたかったんだ。二十二、三の若造が、自分の天才ぶりを世界に宣言したかったのさ……でもそんなことできっこなかった(笑)」と語っている。
「もっと知恵が回っていたら」、オースターはあっさりと小説をものにしていたのかもしれない。しかしもしそのような「頭の回転の速い、聡明な」人であったなら、今でもこうしてコンスタントに小説を書き続けていたのだろうか、とこのインタビューと村上のエッセイを同時に読んで思ってしまう。

十月八日の朝日新聞掲載の記事によると、校了後に村上春樹からこの原稿が届き、急いで取り込んだということだ。日頃締め切りをきっちり守ることを公言している村上がこのような原稿の届け方をしたのは、オースターのインタビューをゲラで読んで刺激されて……というのは僕の根拠のない妄想であります。


また同じインタビューで、『ウィンター・ジャーナル』に続いて書いたまだ未発表の回想『内面からの報告書』の作業をしている際、元妻のリディア・デイヴィスから、手元の文書を図書館に売却するのだが昔の手紙も公開してもいいのか、という問い合わせがきたと語っている。もちろんリディア・デイヴィスはオースターが回想を書いているなんてことは知らなかったので、これもオースターらしい「偶然」である。
『孤独の発明』を始めて読んだ時は、あの妻がリディア・デイヴィスであるなんてことは知りもしなかったわけで、それを知ってから再読するとなんだか不思議な気分になってくるのですよね。


柴田先生はオースター作品の翻訳が七年遅れになっていることを謝っておられるが、クッツェーとの往復書簡が出るのはいつになるのかなあ。
そのクッツェーとの朗読会の動画を見ると、オースターはなんだか嫌な咳きをしているのだが大丈夫なのだろうか。この歳になると今更タバコをやめてもどうなるものでもないのかもしれないけど、ちょっと心配。




と、最後は脱線してしまったけれど、二月発売予定の次号「「2010年代の文学」特集も楽しみに待っています。




プロフィール

Author:佐藤太郎(仮)
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