南アフリカの検閲

南アフリカの作家、ナディン・ゴーディマはアパルトヘイトへの批判者としても知られており、1991年(つまりネルソン・マンデラ解放の翌年)にノーベル文学賞を受賞している。 

ゴーディマの『いつか月曜日に、きっと』には自身を含む作家の作品が発禁にされたことをうけて1963年に書かれた、「検閲され、禁止され、沈黙を強いられ」が収録されている。


なぜわれわれの本が禁止されたのか。最近成立した検閲新法案をめぐっては国会で議論の応酬があったが、法案賛成側は「安っぽい卑猥な表現」などから青少年の純真な心を保護しなければならないとひたすら主張した。もしもそれを信じる人がいたとしたら、きっと禁止されたこれらの本をポルノだと思うだろう。もちろんそうではない。いま名前をあげた六名の作家のどの作品もセックスを扇情的に描いてはいない。セックスに触れているといっても、さりげない表現に留まっており(禁止された作家たちのうち)二冊はその主題からしてまったく性関係に触れていない。内務大臣も国会議員たちもこうした検閲が政治的理由によるものだとは一言も言ってはいないが、これらの本もまた禁止されたすべての南アフリカの作家たちの本もほとんど例外なく、その禁止の理由は政治的なものである。アパルトヘイトによって規定され、自由を奪われた南アフリカの人々の暮らしを描いているといるという点で反体制的だというのである。 (p.108)


言うまでもなく、当時の南ア当局は猥褻なポルノを取り締まろうとしたのではない。「政治的理由」によるものではなく、「青少年の純真な心を保護」するという口実のもとに、アパルトヘイトを批判的に描く作品を取り締まろうとしていたのである。

「出版物が好ましからざるもの」と判定される基準はこうである。

「品位を欠くか、猥褻か、もしくは公衆道徳に反するか有害であると認められた場合。さらに、共和国の信仰ないしは宗教的感情を冒涜したり中傷したりする場合。共和国国民を嘲笑したり、侮辱した場合。共和国国民どうしの融和にとって有害である場合。国家の安全、公共の福祉、あるいは平和と善良なる秩序を乱すおそれのあるもの」。

「品位を欠くか、猥褻か、もしくは公衆道徳に反するか有害である」のは以下のような表現である。

「殺人、自殺、死、恐怖、残酷さ、殴り合い、口論、虐待、無法状態、ギャング、強盗、犯罪、犯罪者の手口、飲酒、泥酔、麻薬密輸、麻薬中毒、密輸、性行為、売春、乱交、強制売春、みだらな行為、欲情、過激なラブシーン、性的虐待、レイプ、男色、マゾヒズム、サディズム、獣姦、中絶、性転換、夜の歓楽街、肉体のポーズ、ヌード、わずかな着衣ないし不適切な着衣、離婚、不貞、姦淫、庶子、人間的もしくは社会的逸脱もしくは堕落、およびその他類似の、もしくは関連した事象」。


広く具体的に規準を示しただけでなく、 「およびその他類似の、もしくは関連した事象」というおまけまでつけられている。こうあればいかなる言説であろうとも取り締まることが可能になってしまう。


「国家の安全、公共の福祉、あるいは平和と善良なる秩序を乱すおそれのあるもの」という名のもとに行政が暴走し、法の恣意的な運用を始める。またそのような恣意的な運用を可能にする曖昧でいかようにも解釈できる法が成立する。そのような事態が進行し始めたときにそれを軽視するといかなることが起こりうるのか、そのことを不断に問い続けることを辞めたとき、それを民主主義の死と呼ぶべきなのだろう。

「民主的に民主主義を終わらせることは民主主義に可能なのか」という問いへの答えはもちろんノーである。民主主義は多数決のみによって成立するのではない。譲ることのできない一線を定め、その時々の相対的多数派や行政の暴走を抑制する制度は民主主義と不可分である。立憲主義や三権分立や人権を原理的に突き詰めて考えると、そこに矛盾や歪みが存在しないというのではない。そのような矛盾や歪みがあろうとも、その原則を捨てないことが民主主義の最低条件なのである。

南アフリカのアパルトヘイト体制が1991年まで続いたということは驚くべきことであるが、それを可能にしたのは「自由主義」陣営の各国がこれを容認、または支援したためでもある。国際的な批判がようやく浴びせられるようになった後も日本は南アフリカを援助し続け、日本人は「名誉白人」なる恥ずべき称号を与えられ続けていた。

マンデラという存在が放つ光を、今こそ噛み締める時なのだろう。


ゴーディマは長年に渡ってネルソン・マンデラの支援者であり、友人でもあった。「ニューヨーカー」にMANDELA, MY COUNTRYMANという追悼文を寄せている。





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佐藤太郎(仮)

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