『時の娘』

ジョゼフィン・テイ著 『時の娘』




前にリチャード三世の遺骨がついに発見されたというニュースがあったが、名作とされる『時の娘』を未読だったものでようやく。


グラント警部は犯人追跡中の負傷により入院生活を強いられていた。あるきっかけからリチャード三世に興味をおぼえ、安楽椅子探偵ならぬ寝台探偵としてその謎に挑むことになる。

「謎」と書いたが、この作品の登場人物の多くはそもそもリチャード三世の生涯に謎など感じていない。薔薇戦争の末期、己の権力のために幼い子どもにまで手をかけた残虐な王、それが一般的なリチャード三世へのイメージである。

定説の定まっていない(とされがちな)歴史的出来事を扱ったり、あるいは定説を覆すような主張をするような本というのは数多くある(「坂本龍馬暗殺の真相」的な)。本書は誰もが疑わないような出来事が実は……という歴史エッセイとしても読むことができる。しかしこの作品はあくまで小説、それも探偵小説なのである。そして読者のその探偵小説的欲望に対し見事に応えてくれている。

リチャード三世については誰もがあの「事実」を「知っている」と思っているものの、実はそれは単なるイメージによるものであった。決め付け、憶測、伝聞などは人に思い込みを生じさせ、一度そのような先入観が働くと普通ならば当然湧くであろう疑問すら抱かなくなってしまう。明白な証拠と思われた自白ですら、その状況にはかなりの不自然な点があるということにどれだけの人が気づくのだろうか。

日本の司法状況を考えるとぞっとさせられるところではあるが、無論本書はそのような社会派的告発ではなく、オーソドックスかつ魅力的な探偵小説として書かれている。ただ惜しむらくは僕自身が薔薇戦争についての知識がまるでないもので、あの入り組んだ人間関係についていくだけで大変であったりしてしまったことか。イギリス人にとってはあのあたりはどこまで「常識」なのだろう。

それにしてもシャイクスピアの『リチャード三世』なんかこの作品を読んだ後に読んだり見たりするとまた印象も変わってしまうのかもしれない。


日本ではこの『時の娘』に刺激を受けて高木彬光が『成吉思汗の秘密』、『邪馬台国の秘密』を書いている。こちらも未読なのだが、なかなか面白そう。




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