『旅芸人の記録』

『旅芸人の記録』

恥ずかしながら未見だったもので、アンゲロプロス特集がやっていてちょうど時間があったので。




1939年から52年までの、忍び寄るナチスの影、イタリア・ドイツとの戦争、枢軸国による支配、パルチザンによる抵抗、そしてまたもや大国に振り回される形での血で血を洗う内戦といったギリシャ現代史を、ギリシャ神話と重ね合わせながら描いていく(ウィキペディアに詳しくあらすじがのっている)。

ファシズムとの戦い、あるいはファシズムへのコンフォーミストを描くという点ではベルトルッチと重なる部分があるが、ベルトルッチ風のこれ見よがしなほどの唯美的手法とは異質なものである。また現代史を神話的に描くというと『ブリキの太鼓』や『アンダーグラウンド』のようなマジック・リアリズム的手法を導入したくもなるのだろうが、そういったものとも無縁で、極めてストイックな作りになっている。

しかしだからといって無味乾燥だというのではもちろんない。アンゲロプロスといえばなんといっても1シーン1カットの長回しが有名だが、全編に渡ってこれが延々と続くことになる。長回しの効果としては、俳優とスタッフに極度のプレッシャーをを強いることによって生まれる緊張感と、観客へ与える異化作用とがあげられよう。頭だけで考えるとカットを割るほうが「不自然」に感じられ、長回しのほうが「自然」に受け止められるように思えてしまうが、実際には長回しの映像を見せられたほうが人工性を強く感じさせられることになる。そして俳優やスタッフのみならず、観客側にも息が詰まるような緊張感が生まれてくるのである。

『旅芸人の記録』の上映時間は休憩なしでほぼ4時間という、長回しだけでなく文字通りに劇映画としてはギリギリ(を越えるほど)の長さになっているが、これもまた長回しと同じ効果を生んでいよう。いつでも一時停止できる環境で見ても意味が無いとまではいわないが、やはり映画館という非日常的空間で制限をかけられた環境で見たほうがよりこの映画を「体験」したといえるだろう(とはいえトイレが近い人間には生理的限界はやむをえないところで、僕も一回トイレに立ってしまった)。

実はもっと「難解」な前衛的なものなのではないかと思っていて、半分寝る覚悟で行ったのだが、手も足も出ないといった類の作品ではない。僕のように教養の無い人間にはギリシャ神話云々といったあたりは見ている時にはまったく意識できなかったように、深く突き詰めていけばキリがなくなるほど重層的なものではあるが、少なくとも作中で何が起きているのかまったく理解できないということではなかった。ギリシャ現代史にも詳しくはないが、これも表面的なプロットを追う分には基礎的な知識があればなんとかなるだろう。万人向けとまではいえなくとも、ごく狭い範囲に向けられた作品というわけでもない。

旅芸人の一座による公演の模様が何度も登場するが、注目すべきは観客の声が聞こえることはあっても舞台を見る観客のその姿は画面には登場しないことだ。これによってまた劇中の観客と映画館でこうして作品を見ている観客との境界も揺さぶられていくことになる。長回しというのはもちろんその場の思いつきでできるものではなく、入念な準備と技術があって形になるものであり、そのような手法によって「体験」を共有していくというのは、映画というジャンルならではのことだろうと思う。

登場人物が明らかにカメラを意識しての独白がいくつか登場するのだが、このあたりはむろんヌーヴェル・ヴァーグ等で散々試されたことであり、アンゲロプロスも「革新的」な演出を意図したつもりもないだろう。「独白」は演劇的手法でもあり、その点では映画文法においては破格ともいえるのではあるが、しかしこの独白がカメラの先にいる観客までも視界にとらえているという点ではやはり映画的なものだとするべきだろう。

あとフィルムの状態はかなり悪くて、時おり瞬間移動してしまう人物が出てしまったりもしたのだが、なんだかこれもジャンプ・カットのように見えてしまい、このあたりもヌーヴェル・ヴァーグ風に見えてしまえなくもなかったりした。


今さらこんなことを言うのも気が引けるが、僕自身がこの作品をどこまで理解できたのかはさておいても、アンゲロプロスという監督はやはりすごい監督なのだということは十分に実感できた。今回は見られなかったが、そのうち機会があれば今度は『アレクサンダー大王』とかも見たいなあ。




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佐藤太郎(仮)

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