『華麗なるギャツビー』

『華麗なるギャツビー』




よくない癖だとは自覚はしているのだが、一度「あぁ、この監督もういいや」と思ってしまうとその監督の他の作品に全く食指が動かなくなってしまう。バズ・ラーマンもその「もういいや」と思ってしまう監督の一人であり、『ギャツビー』をリメイクすると聞いた時から、フィッツジェラルドのファンとしてはいささか気が重く、また予告を見てその疑念はさらにつのってしまったのだが、とはいえ悪癖に引きづられてばかりなのもよくないか、ということで。


『ギャツビー』の中には確かにラーマン的世界向きの部分がないわけではない。そういう点でラーマンのファンにとってはそのあたりはそれなりに楽しめるのかもしれない。しかしそれはあくまで原作の一部の要素であり、ラーマンは『ギャツビー』内の非ラーマン的要素をばっさりとやっていて、原作ファンとしてはなかなか辛いものがあった。

まず原作の『ギャツビー』は、何よりも「アメリカン・ドリーム」への最高の批評となっている。ギャツビー/ギャッツは身の程知らずの「越境者」であり、そのような「越境者」は罰を与えられる運命にある。これが「誰にでも可能性が開かれている国」、アメリカの実態なのである。フィッツジェラルドはこのことを意識していたのは、ギャッツの幼少期のエピソードが、「最もアメリカ人らしいアメリカ人」、セルフ・メイド・マンにして独立の影の立役者、ベンジャミン・フランクリンのパロディになっていることからも明らかだ。ところがこの部分は撮影されたものの、ラーマンはカットしてしまったのである。ここからも、ラーマンがいかにこの作品を理解していないかということが窺える。

また『ギャツビー』はそのような批評性のみならず、フィッツジェラルドの痛々しくも切ない自伝的要素も含まれている。「身分」の違う手の届かない美女に恋をし、彼女と結ばれるためにしゃにむに成功を渇望するというのはフィッツジェラルド自身の体験である。また妻が寝取られるというのも、この作品執筆中にフィッツジェラルドが味わったことでもある。つまりフィッツジェラルドはギャツビーと共に、ブキャナンのある種の面にも「自身」を投影していたのである。この点もラーマンは無視しているようで、ニックの「現在」は原作にないものであるが、おそらくはここにフィッツジェラルドの姿をある程度反映させたつもりなのだろう。もちろんニックにもフィッツジェラルドの影を見出すことはできるが、やはりこの作品の複雑で繊細な陰影を台無しにしているとされても仕方ないのではないだろうか。

もちろん長編小説を映画化する際に全て原作に忠実に映像化することなど望むべきではない。小説はあくまでも小説であり、映画は映画であるのだから、「再現度」を評価の規準にするべきではない。しかしラーマンによる『ギャツビー』は細かな設定の変更が問題なのではなく、『ギャツビー』のエッセンスというものを誤読、あるいは軽視しているという印象が否めないのである。DVDに収録されているラーマンのインタビューも見たのだが、なんであんたは『ギャツビー』を映画化しようとしたの? と、ひたすらムカムカとしてきてしまった。ウィキペディアを見たら「Luhrmann is exactly the wrong person to adapt such a delicately rendered story」という評が載っていたが、まさにこれに尽きるだろう。


ここまでボロクソに言っておいてなんだが、一応断っておくと、箸にも棒にもかからないほどひどい作品であったのかというとそこまでではないだろう。
例えばジョーダン役のエリザベス・デビッキはあの時代の雰囲気をよくだせていたと思う。またトビー・マグワイアのニック役というのも悪くはない。ただディカプリオはギャツビー役としては眉間の皺が気になってしまう。もう少し胡散臭さが漂うほどの非現実的にいい男で、日常的にはピリピリとした雰囲気を出さない役者のほうがあっていただろう。キャリー・マリガンは嫌いじゃないのだが、デイジー役としてはややミスキャストのようにも思えてしまった。もっともデイジーをどう思い描くかというのは人によって結構違うことだろうから、「ぴったりだったよ!」という意見もあるかもしれないが。


とにかく、やっぱり『ギャツビー』を映画化するというのは厳しいものなのですよね。やはりアメリカ文学を代表する作品であるメルヴィルの『白鯨』はまた異なる作品ではあるが、どちらも単に字面を映像化しただけでは何一つ描いたことにならないというところは同じかもしれない。『ギャツビー』のリメイクなんてやるくらいなら、フィッツジェラルドの伝記映画でも撮ったほうがまだいい作品になる可能性が高いんじゃないかと思うのだけれど。




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佐藤太郎(仮)

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