『ウルフ・オブ・ウォールストリート』

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』

三時間近くに及ぶ長尺に、主人公がナレーションで、あるいはカメラに向かって観客にしゃべりまくり、躁的な狂乱の世界が繰り広げられるこの作品は、スコセッシのキャリアでいうと『グッドフェローズ』や『カジノ』などに連なるものであろう。




本作でディカプリオ演じる主人公ジョーダンが成功する手段はドラッグやカジノではなく株であり、しかも倫理的に大いに問題のある手段を取るといったあたりから、拝金主義のとめどもない拡大や金融の存在が肥大化していく「現代アメリカの病」といったものをえぐりだすことを期待する向きもあるかもしれない。確かにジョーダンは自らの会社を「ここはエリス島だ」と叫び(移民管理局のあるエリス島は移民たちのアメリカ合衆国への「入口」だった)、変人やヤクの売人などの半端者を仲間にのし上がっていくなど、「アメリカ」的なものを嗅ぎ取ることはできなくもない。しかしギャツビーの開くパーティーとは違い、その乱痴気騒ぎには刹那的、身体的欲望以外は何もない。まったくの空っぽである。ニュージーランドの欲に取りつかれた人々の呆けたような顔に象徴されるように、「アメリカ」というものを鋭く問いかけるものというよりは、多くの人にとっては一辺の感情移入もできない連中の理解不能なエネルギーの発散を描いたものなのかもしれない。

本作における最大の特徴は、ジョーダンの「動機」の欠如だろう。生まれは富豪ではないが中産階級であり、貧困の中で育ったわけでもなければ、差別によって道が閉ざされたのでもない。会社を立ち上げたオリジナルメンバーに対して特別な感情を持っていて、また父親を会社に迎えもするが、これらはマフィアにおける血縁地縁の重視とはいささか性質が異なるようにも映る。成功に取りつかれているようでありながら、ジョーダンはまた目的もなくダラダラと昔なじみとつるみ続けてしまうような惰性によって支配されているかのようでもある。『ソーシャル・ネットワーク』が擬似的に「動機」を作り出したのとは対照的だ。


株屋金融屋が極度に躁鬱的であり、世界の頂上から愚民どもを見下ろすかのような全能感に覆われたり、凄まじい大金を右から左に動かすという激しいプレッシャーにさらされた結果、気分を上げるためにコカインなどのドラッグに頼らなければならない状態にまで突き落とされるというのは、このようなジャンルを扱った映画等においてはステレオタイプ化しているが、これはまた現実の姿でもあろう。ドラッグ描写は満載であるが、『グッドフェローズ』や『カジノ』における暴力描写がない分だけより性的なものにより焦点があてられているかのようだ。そして『カジノ』における万力拷問がある種の滑稽味を帯びていたように、人間において最も私的で秘められたものである性を扱うことによってその人間の本質を浮かび上がらせようというのではなく、ただその滑稽なほどの異常っぷりを暴露しようとしたものであるようで、それもまた現実の姿でもある。

全裸で肛門にロウソクをさされ、ロウをたらされあえぐディカプリオと、パーティーの最中に人前でペニスをしごき始めるジョナ・ヒルとの間で行われる映画史上最低レベルのヘロヘロ喧嘩に、まったく感動できない人口呼吸を見て、観客はどう反応すればいいのだろうか。もちろん爆笑するのが正解だ(ドラッグをポパイのほうれん草換わりに!)。

『グッドフェローズ』や『カジノ』もそうであったように、これは世界中のほとんどの人間には無縁の世界であると同時に、人間という生物にのみ特殊にこびりついた「業」を「喜劇」的に捉えたものとするべきだろう。スコセッシはもちろん、主人公たちを美化しようとしたり彼らを汚名から救い出そうとしているのではない。しかしまた、倫理的に断罪しようというのでもないだろう。ゴードン・ゲッコーの名前も登場するが、オリヴァー・ストーンの『ウォール街』とはテーマ的に、また一部の描写が重なる部分もあるとはいえ、全く異なったアプローチの仕方になっている。エンディングがそうであるようにシニカルな視線が注がれているが、そこから「教訓」を引き出すのではなく、その「狂乱」の姿を、これもまた人間なのだと受け止めている。救いようもないクソ野郎どもだが、こういった連中はいつの世にもいるものなのだ。

観客は、ロッキー青木!鉄板焼き!ファッキン・ベニハナ! によって転落が決定付けられるその姿を大爆笑をもって迎え、また人間の業におののくのである。


スコセッシとディカプリオのコンビの中ではこの作品が一番楽しめた。ディカプリオも眉間の皺を深めながら手をしゃかしゃか洗いまくったりマフィアに潜入するよりも、これくらいふっきれたことをするほうが楽しかったんじゃないかな、なんて思えてしまった。



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佐藤太郎(仮)

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