『かものファップは知っている』

ジム・ダッジ著 『かものファップは知っている』




ジャクソン・サンティーは放浪癖のある大酒のみのギャンブラー。58歳でついに最初の結婚をして娘をもうけるが、妻は赤ん坊を抱いたまま駆け落ちして家を出てしまう。サンティーは再び放浪の旅に出るようになり、瀕死のインディアンと出会い永遠の命をもたらすというウイスキー、「死の囁き」の調合方法を教わったりする。サンティーの娘ガブリエルは「音速ジョニー」と結婚するが、妊娠中に夫は事故死してしまう。さらにはガブリエル自身も3歳になった息子を残して亡くなる。後に「タイニー」と呼ばれる幼い男の子の唯一の身内はサンティーだった。誰もがサンティーが男の子を育てられないだろうと思ったが、意外にも祖父は孫を育てあげる。タイニーが22歳になったはある日、二人の住む農場で瀕死のかもの雛を見つける。宿敵の野豚ロックジョーにやられたのかもしれない。サンティーが「死の囁き」を与えると効果てきめん子がもはたちまち元気に。サンティーはかもをファップと名づける。こうしてサンティーとタイニーと、大食漢の飛ばないかものファップの愉快な生活が始まるが……


ダッジはヴォネガットやジョン・アーヴィングと比べられることもあるが、デフォルメされた人物がたいした感慨もなくあっさりと死んでしまうといったあたりはヴォネガットっぽくもあるし、奇妙な家族の物語は確かにアーヴィングも連想させる。しかしこの作品全体の肌触りとしてはリチャード・ブローティガンに近いかもしれない。アメリカ先住民的、あるいは東洋的輪廻転生なモチーフが、明るく軽いタッチで描かれる。ブローティガンよりはもう少し物語性や全体の緊密性は高いが、いかにも「60年代的」な雰囲気をまとっているとしていいだろう。

60年代半ばから70年代半ばにかけて一世を風靡したブローティガンだが、ほとんど忘れ去られるようにして84年に自殺を遂げる。45年生まれのダッジはまさに思春期にブローティガン的なものを大いに吸収したのであろう。邦訳の著者紹介には「農場で羊を飼い、樵の仕事もして暮らす三十五歳の詩人で作家で哲学者」とあるように、遅れてきた60年代精神といったところだろうか。


ゴーストと旅すれば』と同じくピンチョン経由で手に取ったのだが、そう思って読むとおっと思わせるところがある。ガブリエルの夫「音速ジョニー」はボーイング社のテストパイロット。ご存知の通りピンチョンは一時ボーイング社に勤務していた(無論パイロットではないが)。ピンチョンは90年に発表されたダッジの『ストーン・ジャンクション』に短い推薦文を書き、さらに97年には長い序文を書いている。その97年に発表された『メイスン&ディクスン』には愛すべき人造鴨が登場するのである。

「音速ジョニー」の設定がダッジによるピンチョンへの、人造鴨の設定がピンチョンによるダッジへの目配せなのかというと多分違うのだろうが、何はともあれ面白い関係ではある。ピンチョンは世代的にヒッピーには早すぎたし、ダッジは60年代に活躍するには遅すぎたわけだが、共に60年代的なものへの共感と愛惜の念を持っているあたりは志しを同じくする者といった連帯感があるのかもしれない。


あと、赤川次郎訳なのだが訳者あとがき等が一切収録されていないのはどういうことなのだろうか。ファンからしたら赤川次郎がなぜ本書を訳したのかなどには興味があるだろうし、売り上げにも貢献しそうなものだが。当人が載せたがらなかったのか、このあたりの事情はわからないが。


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佐藤太郎(仮)

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