『ノルウェイの森』再訪3

引き続き結末や重要な場面に触れてますので、あしからず。

(承前)と、長々と書いてきたのをお読みの方々は、
僕がこの小説が気に食わなかったとお思いかもしれませんが
そうではないのです。
読み返してみるとやっぱり良かった。
ただここで「泣ける」とか「直子かわいそす」とか「ミドリちゃんかわいい」とかで
済ましちゃうと、なんじゃいこんなもの、セカチューと一緒でしょ、
みたいなことになってしまう。
(セカチューは未読なのでどんなんだかよくわかんないけど)
そうではなくて「妙」なことには理由があるのです、ということも
わかっていただければと……
まぁやっぱり「ミドリちゃんかわいい」ってなっちゃうんですけど。
あらゆる小説の女の子の中でミドリのことが一番好きかも、なわけで。

蛇足ながら付け加えるとミドリのモデルは春樹の奥さんとされていて
下189ページからのミドリがワタナベに渡す手紙、
「あなたはいつも自分の世界に閉じこもっていて(中略)またすぐに戻ってしまうみたいです」は
実際に同じような手紙をもらったとも言われています。
素敵なワイ談が好きな方かは不明ですが。

真面目な評も少しだけ。

僕は『ノルウェイの森』を二つの読み方をした。

一つはコミュニケーション、より正確に言えば
コミュニケーション不全の物語である。

過剰とも思えるセックス描写。もちろんセックスは
コミュニケーションの最も深いものの一つである。
キズキと直子はしかるべき関係を結べなかった。
その結果、二人は敗れ去った。
永沢は歪んではいるが生き残った。彼はハツミさんに
歪みを押し付けたがゆえに生き残れたともいえる。
ミドリの飽くなきセックスへの興味はコミュニケーションへの
渇望の印でもある。

では、ワタナベは?
彼は「生き残った」のだろうか。
とりあえずは37歳まで死んではいない。
しかし、かれは最後に自分が「どこでもない場所の真ん中」に
いることに気付く。
キズキは「井戸」に落ちて即死した。直子も実質的にはキズキと同じであった。
永沢は「井戸」をするりと飛び越え、代わりにハツミさんを突き落とした
(永沢は『ねじまき鳥』のワタヤノボルの原型でもあろう)。
ミドリは、ズタボロになりかけながらも、「井戸」から這い出してきたのかもしれない。
あるいは空から見下ろす天使だったのか。
ワタナベは、おそらくは損なわれた存在となってしまったのだ。
「井戸」へ落ちて、即死もせず、しかし足の骨が折れて這い出すこともできず、
ただ来るべき死を、あてもなく「哀しみ」にかられながら待っている。
大切なものを(記憶もその一つだ)少しずつ失いながら。
彼が主人公としてはかなり感情移入を拒む行動を取るのはそのせいだろう。
「井戸」へ落ちると、どれだけ叫び声をあげようとも、
「あなた、今どこにいるの?」となってしまう。
暗い「井戸」の中から、丸い空を見上げ、無力に、身動きもとれないまま、
それを思い知らされながら、ただ失っていくのだ。

もう一つが、冥府下り譚としてである。

ワタナベと再会した時、
直子がすでに失われた存在であったことは明らかだ。
阿美寮の静謐ながら非現実的な姿、それは阿美寮が
「あちらの世界」であることが示されている。
ワタナベにはいろいろきついことを書いたが、彼はそれでも、
勝ち目の無い戦いにあえて挑んだのも事実だ。
しかし冥界から死者を取り戻すことはできないのが
「こちら側」の人間の定めである。
直子との一度の成就したセックスは、直子による
「あちら側」への誘いでもあった。
ワタナベは以降、直子と再び交われず、ミドリとも交わらない。
両者から指や口で射精が導かれるのは、ワタナベが
どちらの側にも行けない中途半端な存在であることの表れであろう。
ワタナベは「こちら側」へやってきたレイコさんと交わることになる。
しかも射精をコントロールできず、4回も交わる。
心温まるようにも見えるが、ワタナベが交わるべきは
やはりミドリだった。
「こちら側」にとどまることになっても「呪い」は解けたのではなかった。
ほんとうに「こちら側」にとどまるには、ミドリをきちんと選ぶべきだった。
ワタナベは半分は「こちら側」に、もう半分は「あちら側」に捉えられたまま
ただ、いろいろなものを失いながら、「哀しみ」に捉われていくままになる。

もちろん直子とミドリ、どちらを選ぶのが「正解」だというのではない。
我々は時に、勝ち目がなくとも戦わなくてはならぬ場合があり、
それが正しいのか間違っているのかは誰にもわからないこともある。
少なくとも、ワタナベは、幾分の揺れを含みながらも
冥府下りを決意し、定め通りに破れ去った。
その点では、やはり彼はヒーロー/英雄/主人公であったのだろう。

他にも60年代末の記憶と『ノルウェイの森』だとか
書きたいことはあったけど長くなってしまったのでこのへんで。

東京紅団さんの阿美寮はここだ
一度行ってみようと思って何年たったのやら。



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佐藤太郎(仮)

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