『黒船』 『海の祭礼』

吉村昭著 『黒船』




1991年発表のペリー来航時に首席通詞を務めた堀達之助の伝記小説。

先に不勉強を告白しておくと、吉村昭の小説を読んだのはこれが初めてである。
歴史小説と一口に言っても様々なスタイルがあるが、吉村のそれは史料を幅広く渉猟し、かつそこからできるだけ逸脱しないようにするものだという。もちろんあくまで小説であるので想像で埋めているところはあろうが、とっぴな虚構を忍ばせるといったことはしないようである。
この作品も、良く言えば禁欲的、ストイックなもの、悪く言うと少々味気ないものともなっている。

森山栄之助との因縁、吉田松陰との出会い、中島三郎助の戦死といった、劇的に脚色したくなる欲求にかられるであろう出来事が達之助の生涯にはいくつかあるのだが、このあたりの筆致は全体として抑え気味である。

確かに明らかなフィクションでありながら実在の人物を登場させているために歴史的事実であるかのように受け取られてしまっている歴史小説というのがあるし、そういったのは困りものでもあるのだが、一方でこのようなスタイルであるなら「小説」という体裁を取る必要があるのかという気にならなくもなかった。このあたりはバランスがなんとも難しいことではあるが。


発表は86年で読む順番が前後したが、引き続き同じ著者による『海の祭礼』も読んでみた。




英語圏出身者としては日本初の英語教師とされるラナルド・マクドナルドと、彼の教え子となった通詞森山栄之助との交遊を描いている。

母がインディアンであったことから差別に直面し、謎の国であった日本に魅入られ危険をおかして密航するマクドナルドと、国際状況の変化からオランダ語だけではもう通用せず、英会話の必要性を感じていた森山が出会い、友情を築いていく。当時としては貴重な英語を話せる通訳となった森山が、ペリー一行に帰国したマクドナルドは元気にしているかと訊ねたのは有名な話だが(ペリー一行はマクドナルドが何者なのか知らなかったようだが)、二人が単に利害が一致しただけの関係だけではなく、精神的な結びつきがあったことをうかがわせるエピソードだ。
マクドナルドはあわよくば日本で通訳、英語教師、あるいは外交顧問として採用されることを望んでいたが、その願いは果たされることなく送還される。一方森山はマクドナルドから教わった英会話によって出世の階段を上り始めるが、幕府の崩壊などによって早すぎる、淋しい晩年を迎えるのであった。

小説的な面白みという点では『黒船』よりも『海の祭礼』の方が上だろう。何よりもマクドナルドの悲しみと必死さとが胸を打つものとなっている。鎖国状態にあった日本へのアメリカ人の潜入という、マクドナルドの特異な体験についてとりあえず知りたいという人にとってもいいだろうし、外国語を学ぶ苦労というのは今でも相当なものがあるが、ましてや教材すらロクにない状態でいかにして、といったあたりに興味のある人にとっても面白く読めるだろう。




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