『通訳たちの幕末維新』

木村直樹著 『通訳たちの幕末維新』




タイトルには「幕末維新」とあるが、オランダ通詞の成り立ちから明治初期までを概観したものとなっている。コンパクトにまとまっているので、通詞に興味があるという人がまず手にしてみるのにいいかもしれない。

通詞の歴史についての本で必ずといっていいほど触れられていて、本書にもあるエピソードが、「十八世紀の著名な絵師司馬江漢」が長崎へ旅し、これまた著名な通詞である耕牛吉雄耕作を訪ねたときの模様だ。吉雄家には耕作を「おぢ様」と呼ぶ4歳くらいの子どもがいた。この子は耕作が妾に産ませた実子であった。4歳にしてオランダ語の単語をよく知っており、馬をパールドと発音し、ものを食べてはレッケル(おいしい)と連呼していた。後にこの子は権之助を名乗り通詞となるが、このように世襲制である通詞は幼少期からオランダ語を仕込まれていたのである。

通詞は時の政治情勢によって危険にさらされることが多かった。オランダ語を体系的に記述するなど言語学者としての面と、西洋の知識を紹介する日本科学史に残る人物でもあった吉雄耕作も、松平定信が通詞を警戒して大量処分を下したのに巻き込まれた。

本書で初めて知ったのだが、吉雄耕作が五年に渡る蟄居の間何をしていたのかについて、『甲子夜話』にはこんなことが書かれているのだそうだ。
寛政四年にオランウータンを輸入し飼育しようとしたが、命令が通じない。このオランウータンはオランダ語で調教を受けていたためにオランダ語の命令なら理解することがわかった。そこで蟄居中で時間のある耕作が長崎奉行の命令でしばらくオランウータンを預かっていたというのである。
これは確定的な史実ではなくあくまでそのような噂話があったという程度のもののようであるが、蟄居といっても実際には厳しいものではなく、耕作は処分が明けた後に再びその活躍を開始することとなる。


それにしても「レッケル、レッケル」と連呼する子どもや、オランウータンの「通訳」を務めるなど、吉雄耕牛の周辺にはなんだか小説か映像化にでもしたくなるようなエピソードがつまっている。平賀源内などは虚実交えて時代劇に登場することも多いが、通詞を登場させた奇想天外な時代劇というのも見てみたい。


プロフィール

佐藤太郎(仮)

Author:佐藤太郎(仮)
shopliftersunionあっとhotmail.co.jp

最新記事
月別アーカイブ
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
カテゴリ
twitter
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR