『精神』

想田和弘監督『精神』




想田監督の前作『選挙』はある種の居心地の悪さがある映画だった。
もちろん大爆笑してしまったのだけれど、
同時に見てはいけないものも目にしてしまったような。
これが派手なBGMや仰々しいナレーションに飾られた映画だったなら、
「安心して」笑うことができたのかもしれない。

想田監督の手法は「観察映画」として
BGMもナレーションも一切排している。
もちろん本作も。

BGMやナレーションを排除しているからと言って
「ありのままの姿」が映せるわけではない。
当然ながら、そこにカメラ、そして撮影スタッフがいることで
「ありのまま」であることはできない。
時折挿入される監督/観客の視線を連想させるカットは
その相対化なのかもしれない。
それと同時に、なるべくありのままに近い姿を、という
製作側の試みは成功しているのだろう。
その証拠が、このような映画としては異例の
患者の顔にモザイクが入っていないことから窺える。
ここらあたりの葛藤などは本の『精神病とモザイク』でもふれられている。

概要はオフィシャルHPから引用。

外来の精神科診療所「こらーる岡山」に集う様々な患者たち。病気に苦しみ自殺未遂を繰り返す人もいれば、病気とつきあいながら、哲学や信仰、芸術を深めていく人もいる。涙あり、笑いあり、母がいて、子がいて、孤独と出会いがある。そこに社会の縮図が見える。

この映画にもある種の「居心地の悪さ」があった。
『選挙』のそれとはまた違った意味での。
この映画は「可哀想な人たち」への一方的感情移入を誘うものではない。
「社会的弱者」の置かれた過酷な状況を声高に訴えるのでもない。
もちろんそういう面も含まれてはいる。
しかし……と感想を書こうとしてもどうもうまく始められない。

前半にショートステイに来た女性が過去を語り始める場面がある。
要を得ない、いささか混乱した語り口からショッキングな告白。
この時の僕の感情はどうであったのだろうか。
「同情」「憐れみ」「とまどい」「嫌悪」「怒り」これらが
入り混じるようで、それでいてこのどれとも言い表せられないものでもあった。

少し前に村上春樹の『ノルウェイの森』を読み返したが
ここには「阿美寮」という精神を病んだ人のための療養所が出てくる。
ここで主人公のワタナベは奇妙なスタッフと出会い、
「患者」である直子やレイコさんと
これじゃどっちがスタッフでどっちが患者だかわからない、と笑いあう。
これは「精神病院モノ」の定石ともいえるもので、
北杜夫の『楡家の人びと』を始めいくつか浮かぶだろう。

教科書的にいえば、「正常」と「病」との間の境界など
あいまいで恣意的なものであり、我々は皆病んでいて、病んでいることは
正常なことでもある、となるのだろう。

『精神』についても同じような感想を語る人がいるが、
この「こらーる岡山」はそれとはいささか異なるのではないか。
ここの患者、スタッフは院長である山本医師に
全幅の信頼を置いているようである。
山本医師はここでは、船の碇のような存在なのだ。
それゆえに、この映画の光景は残酷とも言える。
あれだけ信頼できる医師とめぐり合えても、それでも
病から抜け出ることは難しいのだ。

何度か岡山の町の日常が写しだされる。
もちろんこれは、「精神病という世界」が日常から地続きであることの
隠喩であると解釈するのが「正解」なのだろう。
しかし僕には、あえてこういう言い方をするが、「日常」から
切り離されてしまった人々の苦悩の深さを示すものであるようにも見えた。

終盤に、「健常者」の音楽サークルに入ろうと考えている人が、
患者仲間からの言葉で思い悩んでしまうシーンがある。
その言葉とは、以前自分も同じようなことをしようとしたが
周りの人の視線などが気になって続かなかったというものである。
「健常者」であればこれを自意識過剰と笑って済ますこともできるだろう。
しかし精神を病む人からすれば、あまりに切実な問題なのであろう。

そして最後の電話のシーン。
僕は正直に言って電話の相手の人に同情してしまった。
本作がただ「可哀想な人」への一方的感情移入を促す映画なら、
あの場面をエンディングにもっていくことはなかっただろう。

とりとめなく書いてしまったが、
この映画から感じる居心地の悪さとはなんだろうか。
我々の生活の中に「居心地の悪さ」というのは常に含まれている。
それをなんとかやり過ごしているだけのことなのだ。
これは、はたして精神を病んだ人たちの感じる居心地の悪さと
同じものなのだろうか。
言うまでもないことだが、我々は同じ世界に住んでいる。
では、そのことを、僕は彼らと本当に共有しているのだろうか。
そのことを突きつけられたように思えたのかもしれない。

なんて書いていたら宇多丸さんがキラキラで想田監督の新作の話を。こちら
想田監督タマフル出演の模様はこちら







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