『FBI秘録』

ティム・ワイナー著 『FBI秘録』




「本書『FBI秘録』(原題『敵たち』)は、秘密諜報機関としての連邦捜査局(FBI)の歴史を綴ったものである。FBIといえば、われわれは犯罪人を逮捕し、法の支配を掲げる実行部隊だと思う。だがテロリストとスパイに対する秘密諜報こそ、今日のFBIの第一の主要な任務なのである。それは過去百年間の大部分の時期についてもあてはまることだった」。

「まえがき」にこうあるように、本書は1908年のFBIの前身組織創設から、9・11以降盗聴などを再び積極的に行うようになる「ビッグ・ブラザーの到来」までを、諜報機関という面に焦点をあてて描いている。これは『CIA秘録』の著者の関心領域であることのみならず、FBI創設のきっかけの一つがマッキンリー大統領が無政府主義者によって暗殺されたことであることを考えると、そう偏った視点ではないのかもしれない。

とはいうものの、網羅的なFBIの歴史ではなく、あくまで諜報分野に特化したものであり、ギャングやマフィア、その他の広域犯罪や組織犯罪、凶悪事件といかに闘ったか、あるいは闘わなかったのかについてはあまり触れられていないのは物足りなくも思える。邦題はミスリード気味だし、FBI史の決定版のようなものを期待すると肩透かしをくらうかもしれない。


FBIといえばJ・エドガー・フーヴァーの存在を抜きに語ることはできないし、本書でもフーヴァー在職中の記述に多くを費やしている。しかし、フーヴァーが「隠れ同性愛者」であった、あるいは女装趣味があったなどの根強い噂を含む私生活についてはごくあっさりとすませている。よく言えばゴシップ趣味に走らずに、資料的に確定できる情報以外は重視しないということになるが、一方でFBIの持っていたパラノイア的性質は間違いなくフーヴァーのパーソナリティと関係していたことを考えると、著者のこの姿勢は一見すると中立的であるが、FBIの本質を見過ごすことになっているのではないかという気もしてしまう。

「FBIのパラノアイ的性質」がいかなるものかは、例えば『FBI vs ジーン・セバーグ』を参照してほしいが、この他にも多くの著名人がFBIの執拗なマークに合い、そればかりかセバーグのように意図的にデマをばら撒かれたりもしている。このあたりは情報公開によってかなり明らかになっているのだが、著者はこれらついてもほとんど触れていない。セバーグと関係のあったイーストウッドは『J・エドガー』でフーヴァーの私生活を徹底して取り上げたが、FBIのある種の傾向を掴むにはフーヴァーのパーソナリティというものにもっと突っこむべきだったろうが、本書はそういった方向には向かわなかった。

本書はFBIを理想化したものではない。例えばフーヴァーやFBI全体がキング牧師の背後に共産党がいるのではないかと疑念を持ち公民権運動を敵視したのに対し、KKKに対しては公民権運動家の殺害など残虐行為に実際に手を染めるまでは放置し続けていたなど、その人種差別的傾向も指摘している。ただFBIの歴史に批判的関心を持っている人にとっては、FBIの組織内外の人種差別はもっと激しいものであり、このあたりの記述もまだまだ手ぬるいものだと映るだろう。

また第二次大戦中からくすぶっていた赤狩りが一気に拡がったきっかけとなったのは中国での国共内戦で共産党が勝利したことであったが、これについても触れられていない。常識的知識なので書くまでもないということだったのかもしれないが、諜報に焦点をあてるにしてはこのあたりなど世界情勢との関わりについての記述は少々バランスが悪いようにも感じられた。


と、かなり厳しく書いてしまったが、FBIを諜報活動という面から評価するのは意外と抜けがちな視点かもしれず、あくまでそのあたりを補完してくれるものと割り切って読めば得られるものも少なくはないだろう。



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佐藤太郎(仮)

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