Report from the Interior

ポール・オースター著 Report from the Interior




Report from the InteriorはWinter journalの姉妹篇、いや双子とすべきかもしれない。前作に引き続き「you」という二人称を主語に綴られた回想になっている。

本書は四部から成っている。
第一部のReport from the Interiorは、「まずはじめに、全ては生きていた」と書き出される。小さな物に鼓動があり、雲には名前はあり、はさみとティーポットが親戚で、目と眼鏡が兄弟、幼いポールには世界はそう感じられた。この章はポール少年の成長物語であり、また50年代アメリカ合衆国の物語ともなっている。

1950年代前半、オースターはイノセンスな少年時代を過ごした。50年代というのは、もしかすると都市部の白人にとってはアメリカ史上最も暮らしやすかった時代なのかもしれない。しかしそこには確かに陰が存在していた。リチャード・イエーツは映画化もされた『レボリューショナリー・ロード』で、郊外に住む白人中産階級の、一見すると穏やかな日常に潜む暗さを描いた。ポールの同級生の母親は、アルコール中毒なのか精神を病んでいるのかその陰鬱な姿を晒し、さらにはオースター夫妻の仲も冷え切ったもので、後に離婚することになる。

そして何よりも、人種問題は緊張を高めていった。父は黒人向けのアパートを経営してもおり、家賃の回収にポールも時おり同行した。黒人たちは良い人に思え、なぜこんな良い人たちが厳しい経済状況に置かれているのか理解できなかった。

世俗的とはいえユダヤ系であるオースター家にとっては、ナチスによる虐殺の記憶が反響しないはずはなかった。そして見捨てられたような戦争である朝鮮戦争からの帰還兵たち。冷戦は激化し赤狩りが進むが、子どもたちにとって最も脅威だったのは共産主義ではなくポリオの流行だった。

こんな中でも、アメリカがいかに素晴らしい国家か、アメリカ人であることに感謝しなければ、という愛国心をむき出しにした教育が行われる。次第に本の虫となっていったオースターにとって、この欺瞞性に突き当たるのは時間の問題だった。
本好きであるがゆえに与えられた屈辱によってこの章は閉じられる。教師にいびられ涙を流すが、これが大人の前で泣いた最後だった。オースターの少年時代は終わろうとしており、アメリカのまとったメッキも剥がれかかり、時代は60年代へと向かっていく。

第二部のTwo Blows to the Headは映画好きのオースターらしく、少年時代に見て強い印象を受けたThe Incredible Shrinking ManI am a Fugitive from a Chain Gangについて、記憶をたどりつつ詳述する。
身体が縮んでいく男を描いたThe Incredible Shrinking Manは後のオースター作品にかなりの影響を与えているように思えるし、大恐慌時代に作られたI am a Fugitive from a Chain Gangは、オースターが感じ始めていたにアメリカという国家の欺瞞性と共振したことだろう。

第三部のTime Capsuleでは60年代が描かれる。本書執筆中に元妻のリディア・デイヴィスから電話があり、「ある年齢に達した作家」がよくそうするように、彼女も原稿など手持ちの資料を図書館に寄贈することにし、そこにはオースターとの手紙も含まれていたため、そのコピーを送るというのだ。こうして当時の手紙をふんだんに引用しながら、コロンビア大学での生活や作家修行時代を振り返る。

第四部のAlbumでは、オースターの半生を視覚的に振り返る試みがなされ、まるで長年続けてきたスクラップブックのように、本書で言及された様々な人物や出来事の写真が大量に収集されている。


Winter journalの感想でも触れたように、オースターはこれまでリディア・デイヴィスについてその名前を直接に言及することを避けていたような印象もある。しかし本書では名前を出すばかりか、二人の親密なやりとりまでをも公開している。これはリディア・デイヴィスが「ある年齢に達した作家」として資料の整理と保存を始めたように、オースター自身もその年齢に達したという自覚と、そこから生まれる一種の余裕とがそうさせるようになったのかもしれない。

本書で語られているエピソードは『孤独の発明』をはじめ自伝的作品やエッセイなどと重複する部分もあるが、その印象は幾分異なるものともなっている。書き手の状況が異なれば、記憶の色彩も異なっていくことだろう。
Winter journalが肉体的な「冬」を見据えて書かれた回想だとすれば、Report from the Interiorは老年にさしかかろうとしている作家が、内なる記憶の声に率直に耳を傾けようとした回想録なのかもしれない。






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佐藤太郎(仮)

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