『現代政治理論』

キムリッカ著『新版 現代政治理論』




タイトルの通り現代の政治理論の概説書。

「本書の狙いは、現代政治哲学の議論を支配しているいくつかの主要な学派に関して道案内を付し、批判的評価を供することにある」(p.2)

現代政治理論のエポックとなったのがジョン・ロールズの
『正義論』であることに異のある人はいまい。

取り上げられた項目を目次から拾ってみよう。
功利主義、リベラルな平等、リバタリアニズム、マルクス主義、
コミュニタリアニズム、シティズンシップ理論、多文化主義、フェミニズム。

功利主義から始められるのは、まずロールズの
『正義論』が功利主義への応答からスタートしたため。
以降ロールズのリベラリズムからそのリベラリズムへの
応答を軸に展開される。

著者のキムリッカ自身はリベラルに立脚するが、
リベラリズムも批判的に検証されている。
ついでに言うと僕もローティ的な自由主義福祉国家というものへ
シンパシーがあるが、その批判もうなずけるもの。
例えば
「リベラルな平等主義は、知らず知らずのうちにニュー・ライトの術中に陥ってしまっていると言う者もいるかもしれない」(p.135)
としてリベラルが陥りがちな「罠」について考察する。
ここらへんは今の日本でも身につまされる人も多いのではないかと思うが
ブレアのニュー・レイバーなどその典型と言えるのではないだろうか。

人によっては著者がリベラルだけあってリバタリアニズムやコミュニタリズムへの
評価が手厳しすぎると感じるかもしれないが、
僕からすると比較的公平なのでは、と思える。
欲を言えばちらっとしか出てこない「左派リバタリアニズム」あたりを
もう少し掘り下げてほしかったかも。

ちなみにリバタリアンについては誤解のないように。

福祉国家にたいする一般的幻滅や右派的政策の一般的人気の背後にある考えや信念がこういうもの(引用者中:ワークフェア的な「福祉依存」を断ち切る政策)であるならば、哲学的意味ではリバタリアニズムとはほとんど関連がない。(p.229)

こうあるように、いわゆる「新保守」や「ネオリベ」本書ではニュー・ライトは
いってみればリバタリアン的思考をつまみ食いしているだけなのである。

コミュニタリアニズムの章では今人気のサンデルも俎上にあげられている。
例えばサンデルはアーミッシュなどが
宗教的理由から公教育から離脱することを擁護する。
一方で同性愛を禁止する法律は廃止すべきだと示唆しているそうだ(p.403)。
もちろんリベラルな立場からは同性愛を認めるのは当然なのだけど
アメリカの多くのコミュニティは同性愛に否定的であろう。
ここらへんの整合性のつけ方はかなり恣意的である。
僕からするとコミュニタリアニズムというのはベタな保守主義とリベラルとの
つまみ食いのような。

例の「白熱教室」は面白かったし司会者としてのサンデルは有能だと思うけど
個人的には彼の思想にはかなり懐疑的だったりする。

そんなこんなで、繰り返しになるが現代の政治理論というものは
概ねロールズの『正義論』への応答なのであるが、
本書にもあるようにこれが隙のない完璧な理論であるからではない。
他ならぬロールズ自身が修正を重ねている。
(その修正内容には井上達夫氏のように後退だとして厳しく批判する人も多い)
しかし、それでもまだ乗り越えられていないというのもまた事実であろう。
『正義論』をいかにきちんと乗り越えるかがリベラルにとっても
その批判者にとっても未だに最大の課題なのだろう。

600ページを越える大部ですので気軽にとは言えませんが
読んで損はない本だと思います。



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佐藤太郎(仮)

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