ハーパー・リー、ウンベルト・エーコ死す

ハーパー・リーとウンベルト・エーコの訃報が相次いで入ってきた。

リーは昨年『アラバマ物語』の続編の物議を醸した「新作」、Go Set a Watchmanを発表した。なぜ今になってこの作品を出版するのかには様々な憶測もあったが、没後に出版されるくらいなら存命中に出して、その反応をこの目でみたいということだったのかもしれない。

こちらのツイートにあるように、Go Set a Watchmanは早川書房から刊行されるそうだが、合わせて『アラバマ物語』の新訳も出したほうがいいとも思うのだが、版権はどうなっているのだろう。




エーコの死は日本では奇しくも『プラハの墓地』刊行直後のことだったが、エーコは2015年に遺作となってしまった小説、Numero zeroを発表している。'Numero Zero' Reprises Umberto Eco's Fascination With 'Losers'で昨年の秋に英語で行われたインタビューを聞くことができる。イタリア現代史と陰謀論の絡みあいというのはいかにもエーコらしい。このあたりのエーコの問題意識を探るうえでは『光の帝国』(伊藤公雄著)が非常に勉強になるので、これを機にということではないがこれも復刊してほしい。 Numero Zeroこちらのツイートにあるように河出書房新社から刊行されるとのこと。




「デビュー作にはすべてがある」なんてことが言われるが、エーコが小説家とデビューしたのはすでに学者として名声を築いた後のことなので、『薔薇の名前』をエーコの原点としてしまうのはためらわれるが、それでもやはりここには「すべてがある」ようにも思える。中世を舞台にしたミステリーであり、そして何よりも「笑い」というのが重要なポイントになっている。そしてまた、イタリア近現代史への目配せという面も隠れているとの論じられ方もされる。とっつきやすいとまでは言わないが、読み通すのが困難なほど難解というわけではなく「普通」の面白いミステリーとしても読めるし、またNaming the Roseなる論集が編まれているように、奥深く探求していこうと思えばどこまでもはまっていくことができる傑作でもある。




アカデミシャンとしてのエーコは中世美学者が出発点であるが、何よりも彼を有名にしたのは記号論の分野においてだ。そのものずばり『記号論』という本があって講談社学術文庫に入ったが、こちらは初学者向けではないのでいきなり手に取る前に中身を確認してからの方がいいだろう。個人的には、単著ではなく編者として参加したものだが、記号学の論集である『三人の記号』あたりをまず手にするのがいいのかもしれないとも思う。ホームズをはじめとする探偵小説と記号論というのは当然ながら相性がいいのであるが、論文集でありながら何よりも読むということの楽しさを感じさせてくれる。「笑い」や「楽しさ」というのはエーコの最大の魅力といってもいいかもしれない。




そしてまた、1932年にイタリアで生まれたエーコにとって、ファシズムとの対決というのも大きなテーマでもある。とらえどころのないようにも思えるファシズムを、「原ファシズム」などの概念を用いて分析した『永遠のファシズム』は現在の日本で読んでも(あるいは現在の日本だからこそ)様々に示唆的でもある。「原ファシズム」についてはウィキペディアに簡単にまとめられている。またThe New York Review of Booksに発表されたUr-Fascismはこちらで読める。




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