MONKEY VOL.8

MONKEY VOL.8




オルハン・パムクの『無垢の博物館』は「1970~80年代のイスタンブールの街を仔細に描いた博物館のような小説だが、作者パムクは執筆当時から、この小説の姉妹編とも言うべき文字どおりの博物館をイスタンブールに開く構想を進めていた」。「暇さえあれば古道具屋で陳列商品を買い込み」、ついに2012年に「無垢の博物館」をオープンさせ、「イスタンブールの新たな名物となっている」とのことである(これかな)。

「実在する博物館のいわば非公式カタログともいうべき本」が『事物の無垢』で、今号には英訳からの重訳であるが柴田元幸による抄訳が読める。様々な写真や骨董品の数々は、もちろんパムクの個人的関心や嗜好というのを反映してもいるのだろうが、イスタンブールという街の地層の断面図を見ているような気分にもさせてくれる。どことなくポール・オースターのReport from the Interiorも連想させるが、オースターのは地理的記憶というよりは時代的記憶であったのに対し、より俯瞰的に、ある街というものの一つの側面を感じることができる。

『無垢の博物館』はまだ読んでいないもので、こちらもそのうちに。






今号で一番笑ってしまったのが、「妄想・歴史・写実――2016年 文学の見取り図」という座談会での松田青子によるミランダ・ジュライについてのこんな発言。

「ミランダ・ジュライは、ライオット・ガールの活動からはじまっているので、「個人的なことは政治的なこと」というのが大事なんだと思います。どの作品もどこか不穏というか、ユーモアの発露の仕方がおかしいというか、毎回うまく咀嚼しきれないところがありますよね。ノンフィクションの『あなたを選んでくれるもの』の中に、道端で猫が死んでいるのを見かけて、この猫の敵を討つつもりで自分の映画にも猫を出そうと彼女が思うところがあるのですが、実際にはその映画『ザ・フューチャー』の中でも猫を殺してしまうので、この人の頭の中はどうなっているんだろうと。ちょっと距離をとりたくなるというか、その距離感が私は好きなんですけど」。

笑ってしまったものの、いや笑っていいものだろうかとも思ってもしまうし、どこまでが狙いでどこからがすっとんきょうなのかわかりづらいが、まさにこれこそが狙いといえばそうなのかもしれないが。




今号は国際文芸フェスティバルの「非公式プログラムのような形で、参加する作家たちの作品や有益な情報」が得られるものになっている。

プラープダー・ユンのことは不勉強にも意識したことがなかったのだが、タイを代表する作家であり、またニューヨークで少年時代を過ごして、サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』や『ナイン・ストーリーズ』、バージェスの『時計じかけのオレンジ』などの翻訳も行っているという。さらには自身で小さな出版社を立ち上げ、バンコクに「ブックモービー・リーダーズ・カフェ」という書店もオープンさせている。インタビューでユンはもともとは期間限定の試験的なものであったが、「いろんな人が魅力を感じてくれて、同時代のタイの作家や熱心な読者が集まる場所になっていきました」と言っている。「ブックモービーに置いてある本はほとんどが、真剣に読書を楽しんでいる人のためのもの。同時代のタイの作家のいいセレクションがあったり、ラディカルなノンフィクションがあったり。基本的には、読むことが本当に好きで、いろんな本に出会ってインスピレーションを得たい、そんな書店を訪れたいと思っている人たちのための場所です」とのこと。

またユンは映画の脚本も書いていて(本当になんでもする人だ)、浅野忠信が主演した『地球で最後のふたり』なども手がけている。これは小説版も邦訳が出ている。




今号の小説の中ではイーユン・リーの「小さな犠牲」が一番好きかな。「子犬止まり」のはずが、飼い始めると巨大化した豚によって翻弄されていくという話なのだが、リアリズムとも隠喩的作品とも読める。リーはこういう感じの作品を書かせたら本当にうまい。




オバマの大統領就任式で朗読されたエリザベス・アレクザンダーの詩、「この日を寿ぐ歌(Praise Song for the Day)」から一部を。

汝自身を愛すがごとく隣人を愛せ にしたがって生きる人もいれば、
肝腎なのは害をなさぬこと や 必要以上に
取るな にしたがう人もいる。もっとも強い言葉は愛だとしたら?

夫婦の愛、親子の愛、国家の愛を超えた愛、
広がりゆく光の水たまりを投げる愛、
不平不満を回避する必要のない愛。

今日のくっきりとしたきらめきのなか、この冬の空気のなか、
何だってつくりうる、どんなセンテンスだってはじめうる。
間際で、縁で、先っぽで、

その光をあびながら前へ歩くことを寿ぐ歌。








若干の保守性やレトリック過剰気味のところも含めて、オバマ的イメージをよく体現しているようでもある。


スティーヴ・エリクソンは短編に加えてアンケートにも答えている。「日本の本で、自国の読者に読んでほしい本を一冊教えてください」という質問にエリクソンは夏目漱石の『こゝろ』をあげている。そのコメントで、「日本人読者からすれば、村上や大江といった現代作家と較べるなら――さらには最近没した野坂、ひいては谷崎と較べても――驚くほど伝統的に、古風にさえ思えるかもしれないが(後略)」とあるのだが、エリクソンが漱石や村上や大江や谷崎を読んでいても驚かないが、野坂昭如まで読んでいるとは。考えてみると、『エロ事師たち』と『黒い時計の旅』はポルノつながりといえばそうではあるが。野坂の小説は何点か英訳が出ているようだが、どの作品を読んだのだろう。




「猿の仕事」で柴田先生が「最近よく聴いている」アルバムとしてキャス・ブルームの『1981-1984』をあげている。キャス・ブルームは全然聴いたことなかったのだが、なかなかいいなあ。




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