『サンドラの週末』

『サンドラの週末』

鬱病のため休職していたサンドラは職場復帰を控えていた。しかし同僚のジュリエットから、従業員の投票によりサンドラの解雇が決まったとの電話を受ける。従業員たちはサンドラを復職させるかボーナスの支給かの二者択一を迫られ、ボーナスに投票したのだった。ジュリエットとサンドラは社長に直接かけあい、主任による誘導と脅迫があったとして月曜日の再投票を引き出した。サンドラは残された週末の間に従業員たちを説得しようとする……


以下結末に触れているので未見の方はご注意を。



本作は先進各国の現代資本主義の縮図となっているかのようだ。
「万国の労働者よ団結せよ」とかつてマルクスは言った。「鉄鎖の他に失う物はないのだ」と。しかし労働者たちには失うものがある。そしてそこを資本家につけこまれ、分断が図られる。

従業員たちの生活は苦しい。ボーナスが咽喉から手が出るほど欲しい。それは何よりもサンドラ自身がわかっている。彼女も仕事を失えば、せっかくの家を出て公営住宅に逆戻りしなくてはならない。サンドラが直接訪ねると、ある者は娘を大学にやるためにはボーナスなしにはやっていけないとし、ある者は罪悪感から泣いて詫び、ある者はボーナスが出てサンドラが復職できればそれが一番なのだがと言うものの、彼は週末にアルバイトをしなくては家計が持たないという状況だ。またボーナスは働いたことへの報酬だ、お前は俺たちのカネを奪おうとするのかと、敵意をむき出しにする者もいる。

従業員たちは一致団結してボーナスの支給とサンドラの復職との双方を求めるべきなのかもしれないが、日々の生活に汲々となりそれどころではないのである。

サンドラは不安にかられ、絶望から薬を大量に飲むなど再発の危機を迎えながらも、夫や彼女の側に立つ同僚の支えもあって説得を続ける。投票の結果は8対8。同数は過半数ではないとされ、サンドラの解雇が決まる。しかしデウス・エクス・マキナのごとく社長が登場し、社員たちにモメてほしくない、ボーナスを出してサンドラも復職させよう、と言うのであった。

社長は二ヵ月後に臨時雇いの契約が切れるのでこの契約延長をせずに、サンドラを復職させようと言う。しかしサンドラは誰かをクビにするのならと、これを断る。サンドラの解雇に投票しなければどうなるかわからないぞ、と主任から脅迫されていたのはこの臨時雇いだった。社長はこれは解雇ではない、ただの契約切れだとするのだが、サンドラはこの提案を拒むのであった。

この作品が現代先進国社会の縮図であるならば、これをハッピーエンドで終わらすことはできない。ダルデンヌ兄弟らしく、簡単にこの世界を切り分けたりはしない。サンドラが分断に抗するという連帯の姿勢を見せる、希望を感じさせなくもないエンディングであるが、しかしサンドラの置かれた状況が厳しいものであることに変わりはない。


自分の生活を守るために他者を犠牲にすることを迫られる、これは偽りの二者択一であるとするべきなのだが、目の前にこの選択が突きつけられると、とりわけ経済的に弱い立場にある人が抵抗するのは難しい。さらに結末部分で示されるように、経営者目線では有期雇用の従業員など雇用の調整弁でしかなく、契約を延長しないことは解雇ですらないのであり、「正社員」たちはその視線を自明のものとして受け容れることが要求される。

数の上では多数派であるはずの労働者が、民主主義国家においてなぜ苦境に陥り続けなくてはならないのか、その構造はまさに本作の中にあるだろう。

またこの作品は現在のフランス社会を描いたものでもあろう。主任から脅され、サンドラに同情しつつも態度を決められない臨時雇いの労働者は黒人であり、サンドラの復職要求は自分たちが得るべき正当な報酬を奪おうとするものだと怒りを露にするのは白人である。ややステレオタイプ化されていると言えなくもないのかもしれないが、労働者間のみにとどまらない、フランス社会における様々な深刻な分断というものもまた描かれている。


それにしても、サンドラの置かれた状況は経済的にも精神的にもきついものだと思う一方で、サンドラには何よりも彼女を理解し支えてくれる夫がいて、サンドラを支持してくれる従業員もいることを考えると、現実はここで描かれるよりもさらに過酷なものであるように感じられてもしまうのであるが。




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佐藤太郎(仮)

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