お茶目な大岡昇平

『大岡昇平全集 別巻』の月報に小児科医の坂本貞枝の回想がある。
坂本は夫となる男性が文芸誌の編集者だったことから大岡に仲人を依頼し、快諾された。毎年大岡家に年始にあがるのが習慣になっており、長女と双子の妹が生まれた後もそれは続いた。「子供達を前にすると先生は実に御機嫌な好々爺になられる」と書いている。

そして、「或る年、丁度「おばけのQ太郎」という漫画が大人気だったが、「あんた達この歌知ってる? キュッキュッキュ、オバケのQ」と主題歌をいきなり歌い出された。向かいのソファーに並んだ娘達は生憎揃って内気で、一緒に大声を張り上げる子は一人もいず、お行儀よく膝に手を置いて、歌うおじいちゃまを面白そうに眺めているだけだったのはお気の毒だった」とのことである。

娘たちはおそらくは「お母さんがお世話になった偉い先生ですからね」といったことを言い含められていたのだろうし、突然オバQの主題歌を歌いだされてもとまどってしまったことだろう。それにしても「歌うおじいちゃまを面白そうに眺めているだけだった」そうだが、逆に眺められているだけだった大岡の心境はいかなるものだったのだろうか。

時は流れ、「話題は「シンガーソングライター」や時のポップス歌手」となり、昭和50年の秋には大岡はこの娘たちを南沙織のコンサートに連れて行った。大岡はすでに足取りがややおぼつかなくなっていたが、この時に撮った写真を見ると「左端の柔かい白のセーターの姿の先生が、一番嬉しそうに笑って」いたそうだ。

大岡といえば現在ではなんといっても『野火』などの戦争文学イメージが強いだろうが、同時にこうしたお茶目なおじいちゃまでもあったのですよね。





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