『レヴェナント』

『レヴェナント』




前にも書いたが、イニャリトゥ監督の『バベル』などの作品は、「深遠」だとか「壮大」というよりも「大仰」という印象の方が強くて個人的にはあまり好みではなかった。その点前作の『バードマン』は、「小品」であるが故にこの欠点が出ずに技術的に優れた部分が目立つことになった快作であったと思う。予告からしていかにも「深遠」で「壮大」さを想像させる『レヴェナント』には不安もあったが、『バードマン』を通過した後にどのような感じになっているのかにも興味があって観にいってみた。

まあとにかくその映像には圧倒させられるし、これだけで十分に元を取ったと思わせてくれる。とはいえ、あくまで個人的な好みの問題でいうと、やはりこの人はこういうタイプの作品にはあまり向いていないのではないかなあというのを改めて確認してしまったようでもあった。


空中浮遊シーンに顕著なように、明らかにタルコフスキーを下敷きにしたシーンが多い。しかしそれにしては、全体としてカットを割るのが早すぎはしないか。タルコフスキーなら(観客がぐーすか寝てしまうのも全く気にせずに)、水がさらさら流れるだけの映像を延々と長回しするとことだって厭わなかっただろうが、本作の場合よく言えば観客を退屈させない、悪くいえば観客を信じていないシーンが多かったのではないだろうか(『バードマン』ではこれでもかと擬似長回しをやったのに!)。

『アラビアのロレンス』には蜃気楼の彼方からアリがゆっくりゆっくりと現れる有名な場面がある。また最近ではタランティーノの『ヘイトフルエイト』のオープニングも見事だった。『レヴェナント』でも雪原の中を行くディカプリオをロングショットで捉えた場面があり、これらに匹敵するようなものになった可能性もあったのだろうが、イニャリトゥは我慢ができずに(?)すぐにカットを割ってしまい、やたらと人工音をいれたがる。

156分という上映時間を確保できたのであれば、このようなタルコフスキーのいくつかの作品や『ロレンス』、『ヘトフルエイト』(のある部分)のようなことをやれる余地は十分にあったのだろうし、嗜好の問題でいえば僕はそういったものも大好物なのであるが、イニャリトゥはそちらの方へは行かないのである。

一番象徴的なのが、本作にはフラッシュバック、夢、幻覚の場面があるのだが、あれはいったい何だったのかと、後になって観客が混乱に陥るようなことにはなっていないところだろう。これも明らかにタルコフスキーを模した教会の廃墟の場面もきれいに説明されてしまう。親切な作りで「安心」して見られるといえばそうかもしれないが、監督の勇気のなさ、あるいは自信の無さのようにも思えてしまう。

個人的に演出面で一番疑問に感じたのは、熊や人間の吐く息でレンズが曇るというものだ。吹き飛んだ血がレンズにつくというのはもう当たり前のものとなっているし、今さら「誰の視線なんだよ」という突っ込みを入れるつもりはないものの、タルコフスキー的雰囲気を出したいのであれば、こういった形で「臨場感」を出そうとするのはどうなのだろうかと感じてしまった。

こうであるならばいっそのこと復讐譚を全面に出して、トム・ハーディからの連想であげると、120分程度にまとめて『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ばりにノンストップのアクション作品にしてもいいのだろうが、自尊心が邪魔をしてそうできないのかは知らないが、どうしても「奥深い」作品にしたいという欲求も抑えられないかのようでもある。


観にいった時は寝不足のうえに体調も今一つだったもので、タルコフスキーの『ストーカー』ばりの作品であったら確実に深い眠りに落ちていたと思うのだが、眠らずに最後まで見通すことができたし、それはやはり映像の力もあって決して退屈はしなかったということでもある。ぶつぶつ文句ばかり言ってしまったがこれはあくまで個人の趣味嗜好の問題であって、駄作だと言うつもりもない。

しかし、少々倒錯しているかもしれないが、水がしたたる音を聞きながら、あるいは雪原の遥か彼方を彷徨う男を見ながら、夢現を行ったり来たりするというのも悪くなかったかもしれないとも思えてしまった(寝てしまうのもタルコフスキー作品の醍醐味の一つだ、と言うと怒られるかもしれないが)。

同じ素材をタルコフスキーなら、あるいはジョージ・ミラーならどのように料理したのだろうかということを想像してみると、やっぱりイニャリトゥとは肌が合わないのかなあという感じでもあった。また『バードマン』みたいな「小品」を撮ってくれればいいのに。


こんなのあるしw





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佐藤太郎(仮)

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