焼きたてのホット・ケーキにコカ・コーラを

ちひろ美術館で村上春樹作品の挿画や挿絵の原画が見れる「村上春樹とイラストレーター - 佐々木マキ、大橋歩、和田誠、安西水丸 -」が開催中であるが、そこではなんと「会期中、絵本カフェにて『風の歌を聴け』に登場する鼠の好物「ホットケーキのコカコーラがけ」をご提供します」とのこと。

『風の歌を聴け』において「僕」が「不気味な食物」と評したアレが出されるとは……。プロの人が作ればそれなりにうまいものに仕上がっているのか、それともまさにホットケーキにコーラをかけただけのものになっているのだろうか。


前にも書いたように、『風の歌を聴け』というのは戦後生まれ世代の精神史のようにも読める。「僕」や鼠の世代はアメリカ文化というものを遠く仰ぎ見るものとしてではなく、日常的なものとして消費している。しかし同時に、親の世代による戦争の影というものも確実に感じてもいる。『風の歌を聴け』では、そしてその後の多くの村上作品でも、それは中国という形で表象されていることが多いが、もちろん戦争の記憶という点ではアメリカもはずすことはできない。

鼠の父親は戦中、戦後にかなり怪しげな方法で富を築いた。鼠は父親を、そして金持ちを嫌っているが、しかし彼はその父の庇護のもとで物質的に恵まれた生活を送っている。鼠の鬱屈は父親に対するものであり、また自分自身に対するものでもある。『羊をめぐる冒険』で街を出た鼠が最後に辿り付くのがあそこであるというのは必然とすることができる。


「鼠の好物は焼きたてのホット・ケーキである。彼はそれを深い皿に何枚か重ね、ナイフできちんと4つに切り、その上にコカ・コーラを1瓶注ぎかける」。

「この食い物の優れた点は〔……〕食事と飲み物が一体化していることだ」と鼠は言う。

鼠はパンケーキやコカ・コーラという、いかにもアメリカ的な飲食物をぜいたく品や特別なものとしてではなく、日常的なものとして飲み食いしている。しかし、冷めたホット・ケーキを流し込むためというのならまだわからなくもないが(いや、やはりわからないけれど……)、わざわざ焼きたてのホット・ケーキにコカ・コーラを注ぎかてしまうのであり、しかもぐちゃぐちゃになってしまうであろう(ハチミツの代わりに少量というのではなく「1瓶注ぎかける」のである)それを「きちんと4つに切り」分けている。
このあたりに鼠によるアメリカへの、あるいはアメリカ文化を衒いなく受け容れているかのような自分の世代、及び戦後の日本へのアンビヴァレントな感情を読みとることも可能だろう。

ということで村上作品を真に消化するためにはやはりこれを胃袋に運んでみなければならない……ということはまったく思わないけれど、まあ話のタネに食べてみるのもいいのかもしれない。

7月10日までは村上春樹の著作をどれか一冊持参すると100円引きになるということです。

村上のデビュー作である『風の歌を聴け』の挿画を以来されたときのエピソードについては佐々木マキのこちらのエッセイでも触れられていますね。




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佐藤太郎(仮)

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