『ライク・サムワン・イン・ラブ』

もちろん偶然なのだけれど、こうも続くかという感じでキアロスタミの訃報が入ってきた。

皮肉なことに、表現の自由が縛られているからこそ新たな、豊かな表現が生み出されるということがある。キロスタミの『友だちのうちはどこ』をはじめとする革命後のイランにおける子どもたちを描いた作品はまさにそうだろう。しかしキアロスタミはそこにとどまっていられるような監督ではない。『友だちのうちはどこ』の後に撮られた『クローズ・アップ』は、実際にあった事件を当事者たちに再現させるというすごい手法で撮られたものである。

遺作ということになってしまった『ライク・サムワン・イン・ラブ』は日本を舞台に、キアロスタミのちょっと奇妙な部分がよく出ている作品だろう。前に見たきり感想を書きかけてほっぽりだしていたのを引っ張り出してみた。





大学生の明子の置かれている状況は、はっきりとは示されないが推測はつく。借金を作り、その返済のために風俗で働き、現在はデートクラブに属している。束縛の強い彼氏や、おそらくは彼女の身を案じてやって来た祖母の存在などで苛立っており、仕事に向かうのに気が進まない。それでもヒロシから半ば強引にタクシーに乗せられ、着いた先にいたのは引退した老教授であった。

ヒロシを演じるのがでんでんなせいもあって(キアロスタミは『冷たい熱帯魚』を観ているのだろうか)、前半はどこか禍々しい雰囲気が漂っている。しかし次第に『マイ・フェア・レディー』がちょっと入ったウッディ・アレンっぽい展開に入るのかと思いきや……といった感じになろうか。

この作品でキアロスタミの奇妙な部分が最も出ているのは隣のおばさんだろう。その設定は少々やり過ぎのようにも思えてしまうが、不気味かつ執拗なその姿にむしろ引き込まれてもいく。
日本語ができないキアロスタミが日本語で撮ったためにセリフなどが少々いびつになっている所もあるし、あえてそうしたのかもしれないが、時間や地理的感覚がぎくしゃくしているようにも感じられる。万人受けする作品とは言い難いかもしれないが、しかしそういったあたりも含めて不思議な味わいをかもしだしている。

そういえば老教授があたふたする場面はタルコフスキーの『サクリファイス』を少し思わせなくもなかった。『サクリファイス』が核戦争勃発の恐怖に端を発することを思えば、こちらの老教授はずいぶんとパーソナルではあるが。『サクリファイス』は日本人からすると気恥ずかしくなる日本趣味が使われていて、またタルコフスキーは『惑星ソラリス』では未来の都市として首都高を使ってもいる。『ライク・サムワン・イン・ラブ』でも高速道路の高架が映し出されるが、タルコフスキーへのオマージュだったりするのだろうか。






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