『ストロベリー・デイズ  日系アメリカ人強制収容所の記憶』

デヴィッド・A・ナイワート著 『ストロベリー・デイズ  日系アメリカ人強制収容所の記憶』



著者はジャーナリストで、原著は90年代前半に新聞にルポルタージュとして発表されたものに加筆をし、2005年に刊行された。サブタイトルにもあるように、本書は日系アメリカ人の苦難の歴史を扱ったものである。著者はドイツ系であるが、幼少期にアイダホ州のミニドカ収容所の跡地に雉狩りに連れて行ってもらったことがあり、また日系人の友人もいたが、彼らの親が被った強制収容は当時アメリカの学校では教えておらず、このことを知って驚いたという経験も執筆の動機になっているようだ。


1849年、カリフォルニアでゴールドラッシュが起こる。中国人移民は貴重な労働力としてアメリカに迎えられた。しかしゴールドラッシュも終わり、鉄道の整備も進むと労働市場は飽和状態となり、中国人労働者は排斥運動の被害に合うことになる。当時、「アメリカ人のためのカリフォルニアを」というスローガンが叫ばれた。

「白人は優れており、人種隔離が必要だ」という主張が公然と行われ、集会では、「人々は「純粋な人種」や「西洋的社会」たるものを訴え、東洋人は劣った人種であるとして、性的な理由をほのめかしながら、もっとも恐ろしい脅威だと主張した」。

一時はカリフォルニアの人口の10パーセントが中国人となるほどだったが、中国人労働者たちは追い立てられ、その動きは近隣の準州だったワシントンやオレゴンにも広まっていく。一方でこれらの地域は以前として安価な労働力を必要としてもいた。そこで中国人に代わって日本人がやって来ることとなった。しかし日本人もまた、「ジャップを追い出せ」と厳しい迫害にさらされるのであった。

日本人、そして二世たちは苦難に耐え、定着していった。農家出身の移民が多く、アメリカで行われていたのとは違う農法によって貴重な作物を生み出した。タイトルにもあるようにイチゴもその一つで、当時のアメリカ西海岸で流通していたイチゴの多くが日系人の育てたものとなるほどだった。

しかし東洋人全般に対する蔑視と猜疑心は根強く、また日本の膨張主義によって日本人・日系人へのそれはさらに強まった。ついに真珠湾攻撃が起こり、日本生まれの一世はむろん、アメリカ生まれアメリカ育ちの二世も強制収容所に送られることになる。劣悪にして異様な環境の中、日系人たちの間にも意見の相違から緊張が走るようになるものの、志願兵による日系人部隊が結成される。ヨーロッパ戦線では危険な前線に投入され多くの死傷者を出すが、この働きによって日系人に注がれる視線に変化も生じるようになる。しかし第二次大戦終結後に、解放された日系人を待っていたのは右派勢力によるバッシングであった。それでも今回は、心ある人々が立ち上がることになる。

こういった歴史を、ワシントン州ベルビューを中心に、当事者である日系二世へのインタビューを重ねることで、丁寧に描いている。

本書のエピローグでは2001年の9・11が取り上げられている。強制収容所を経験した日系人たちには、またあの歴史が繰り返されるのではないかという不安が広がった。後半で描かれるのは、まさにアメリカという国家の様々な姿だろう。1988年にはレーガン政権によって強制収容された日系人への謝罪と補償がなされたが、これには与党共和党からの反発が根強かった(実行したのがルーズヴェルトであることを思えば皮肉にも思えるが)。その後も共和党からは謝罪や補償への懐疑の声がくすぶり続けたが、これに昂然と立ち向かったのが、アジア系としてアメリカ初の知事となった、ワシントン州知事ゲイリー・ロックだった。このように、汚点といえる歴史を数多く抱えながらもマイノリティーにルーツを持つ人々が政治的に重要なポジションを獲得していけるほど社会の変革が進むのもまたアメリカの姿だ。また中国系のゲイリー・ロックが日系人のために論陣を張り、9・11後に日系人がイスラム教徒に対しての迫害が始まるのではないかと案ずるのもアメリカの姿であろう。しかしまた、アメリカの右派は日系人の強制収容は正しかったのだと言うばかりでなく、当の日系人を保護するためであったのだという修正主義の主張を行うことになる。当然ながらそのような主張は全く実態にそぐわないのだが、歴史的な実証主義などどこ吹く風で、右派論壇内では受け容れられ、これによってイスラム教徒への差別的扱いをも正当化しようとするこのような姿も、アメリカの現実である。

原著刊行時にすでにドナルド・トランプは超のつく有名人であったが、この約十年後に彼がこれほど大きな政治的旋風を巻き起こすことになると想像していた人はまずいなかっただろう。本書を2016年に読んでいてまず感じたのが、19世紀半ばから20世紀前半にかけての差別主義者の口吻がトランプのそれとなんと似ているかということであった。

すでに引用したように、東洋人に対して「性的な理由をほのめか」す主張が行われていたが、トランプはメイキシコ人を「娼婦とポン引き」だと言い放った。また1900年に行われたワシントン州タコマ市では、労働組合が東洋人の排斥を議会に働きかけようとしたが、日本が報復措置に出る可能性があったために取りやめになった。それでも選挙の際には、投票所に向かう人々に「労働者同士よ、注意せよ! 日本人一五〇〇人がなぜタコマにいるかご存じか……ルイス・D・キャンベルがタコマ市長に選出されたあかつきには、日本人は製材所や工場でわれわれ白人の仕事を奪うのだ。キャンベルは雇用主を保護して、そのような暴挙に出る」と訴えた。
トランプはまさに、厳しい生活を強いられている白人労働者に向かって、メキシコ人やその他の移民が仕事を奪うのだと煽り立てている。「アメリカ人のためのカリフォルニアを」という当時のスローガンは、現在のトランプ支持者にとっては「白人のためのアメリカを」ということになるのだろう。

しかしタコマでの排外主義的な訴えは必ずしもうまくいかなかった。何よりも安価な労働力が求められていたからだ。現在のアメリカにあれほどの数のメキシコからのイリーガルな移民がいるのは、安価な労働力として求めている人たちがいるからでもある。一方で排外主義が高まりつつ、また外国人労働者を劣悪な労働環境で搾取するという点では、現在の日本も他人事ではない。移民を入れるのは嫌だが使い倒せる安価な労働力は欲しい、そういった浅ましい発想により「外国人実習生」なる制度が作られ、「合法的」奴隷ともいえる存在が日本にはいるのだが、多くの日本人は見てみぬふりをするという以前に、深刻な人権侵害が頻発している状況に関心すら持っていない。
また東洋人に浴びせられる蔑視や罵声は、現在の日本での在日コリアンなどに対するそれと酷似している。「国民国家」成立以降の差別主義者というのは、時代や地域を越えて同じような発想をするのだろう。

高木俊朗の『狂信』は、第二次大戦後のブラジルで、日本は戦争に勝ったのだと主張する「勝ち組」と日本は戦争に負けたのだという現実を受け入れた「負け組み」との血塗られた争いを扱ったものだが、ここで高木は「勝ち組」が単なる狂信者のみではなく、「利欲」にもまみれていたことを明らかにしている。実は日系人排斥も、単なる人種偏見のみによってもたらされたのではなかった。アメリカ当局の中には、沿岸部に住んでいた日系人を内陸部に強制的に移住させて、戦時で不足し始めていた農業労働力として使おうと考えていた勢力がいた。強制移住はうまくいかなかったが、強制収容者を利用しようと考えた。実際いくつかの家族が、農業労働に従事するために収容所から出されている(収容者からすれば、こんな所に閉じ込められるくらいなら見知らぬ土地であろうが厳しい労働が待っていようが、ここよりはマシに思えた)。

「ジャップを使うのか」と「愛国者」からの反発もあったが、生真面目な日系人労働者はコミュニティにも受け入れられていった。「愛国者」の農場主までもが、日系人に仕事を頼むほどになり、農繁期が終われば収容所に戻すつもりだった当局の意に反して、ある家族はオレゴンに定住することができた。

また第二次大戦後に収容所から解放された日系人がかつての住まいに帰ろうとすると、排外主義運動が起こった。しかし今回は立ち上がった抗議者から、声高に日系人排斥を叫んでいる勢力が、実は日系人がこのまま帰らなければ土地を占有できるなどの個人的利害が絡んでいるのだということが指摘された。日系人部隊の活躍などによって偏見が和らいだという面もあろうが、排外主義を煽る勢力の動機の一端が暴露されたことも、戦後に日系人排斥の声がそれほど高まらなかったことにもつながっているのかもしれない。

このように、アメリカ合衆国における日系人のみならず東洋人の苦難の歴史は、現在のアメリカ、そして日本を含む世界の多くの国の現状を考えるうえでも、広く知られ、考えられ続けられるべきことであろう。


DENSHO(伝承)というウェブサイトで、本書でも証言が使われている人を含む日系人のインタビューを見ることができる。

またジェイ・ルービンの小説『日々の光』も日系人強制収容を扱った小説であり、本書も合わせて読むとより一層理解が深まることだろう。


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佐藤太郎(仮)

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