MONKEY vol.9

MONKEY vol.9



特集は「短篇小説のつくり方」。
村上春樹訳でグレイス・ペイリーの短篇、エッセイ、インタビューが収録されていて、ペイリーについて、そして短篇小説についての村上のインタビューもある。ペイリーについては村上は以前短篇集は全て訳すと言っていたものの、二冊が出たきりで止まっていたのは、ペイリーは「なにしろ骨だらけの文章なので見も心も疲れ」て、「二冊訳して、へとへとにな」ったうえに担当編集者でペイリーも好きだった岡みどりさんが亡くなってしまったせいもあって「足が遠のいて」いたそうだ。

僕もペイリーの作品は嫌いではないのだが、一方で村上が入れ込む理由というのはもう一つピンとこないところもある。ペイリーはフェミニストであり政治的意見も積極的に発言するタイプで、そういったスタイルは村上とは対極にあるとしていいのだろうし、村上は自身を長編作家とみなすが、ペイリーは長編を書かずに短篇が主戦場である。このあたりは対極にあるからこそ、というところもあるのだろうが、やはり短篇作家であったレイモンド・カーヴァーとの比較についても語られているが、村上がカーヴァーに入れ込むのはわかるにしても、やっぱりペイリーのどのあたりに引き込まれるのかは正直どうもよくわからないところでもある。まあペイリーに限らず、村上の短篇の評価の仕方というのは割りと独特なところがあって、長編の翻訳だと「いかにも」という感じのものが多いが、短篇は結構意外なところをついてきたりするような気もするが。

「これは玩具考案者である私の友人、ジョージのお話」という長いタイトルの短い話にはピンボールが登場する。ペイリーのこの作品は1985年発表なので、もちろん『1973年のピンボール』の後に書かれ、当然ながら当時は村上のこの作品は英訳されていなかった。ピンボールにメタファーを見出すということでは、やはり共振するものがあるのだろうか。

ペイリーは政治的主張を小説にあまり持ち込まないとされるが、エッセイ「旅行しているとき」は母と姉が南部をバスで訪れた際に体験した出来事を後になって知ったことを受けてかかれた、ペイリーの政治姿勢がよく表れたものになっている。これも「小説」として考えることも可能だろうし、そうであればリベラルな立場からのアメリカ史の一断面を描こうとしたものとしても受け取れるが、こうしたものばかりだったら村上は関心を持たなかったのかもしれない。とはいえこれは、聞こえはよくない言い方かもしれないが、このエッセイは普通に感動して考えさせられる秀作であるし、こういった方が一般的にはとっつきやすいだろう。98年に書かれたものだが、今だからこそぜひ目を通してほしい作品である。

ペイリーの81年のロング・インタビューではジョーン・ディディオンについて辛辣に語っている。ペイリーは自身をフェミニストだとしつつも、「大義(cause)」という言葉が好きではないとするが、またディディオンは「彼女はフェミニズムの大義のための害をなしていると思います」と語っている。僕はペイリーについてもディディオンについてもいい読者ではないもので文脈がよくつかめないが、このあたりはフェミニズム批評的にはどうなのだろう。



「超短篇」13本では、英語からの重訳になるが柴田元幸訳、カルヴィーノの「黒い羊」が、原始共産主義ならぬ原始資本主義が近代資本主義化していく過程で起こることを描いたさすがの寓話になっている。あまり大きな声では言えないが、個人的にはカルヴィーノは前衛的手法による実験的作品よりも、こういった寓話作品の方が好きだったりする。




「猿からの質問」では短篇小説を「一本だけ自分が書いたことにできるとしたら、どれを選びますか?」に、是枝裕和は志賀直哉の「剃刀」をあげている。「日常の中にあって、フッっと時折顔を見せる小さな暴力や暴力の描写が好きなんでしょう」とし、「そのあたりはレイモンド・カーヴァーに似ているなあ」と書いている。こういったテイストは僕も好きなもので、志賀の「剃刀」は未読なのでそのうちに読んでみよう。




岸本佐知子の連載エッセイ「死ぬまでに行きたい海」の「多摩川」にインスパイアされ、片岡義男がその「後半」を小説として書いているが、今号の「死ぬまでに行きたい海」では「YRP野比」が取り上げられている。「<YRP>部分のメタリックさと、<野比>のこの上ないのどかさ」からなるこの駅名は、確かに「一度見たら忘れられない文字列だ」。
「京急久里浜」と「京急長沢」に挟まれて「わいあーるぴーのび」と表記されている看板がなんともシュールでよい。


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佐藤太郎(仮)

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