『熟語本位英和中辞典』復刊

岩波書店から斎藤秀三郎の『熟語本位英和中辞典』がCD-ROM付きで覆刻され、関連した本も同時に出るようだ。




世の中には知っている人は知っているが知らない人はまったく知らないものというのがある……なんてことを言い出せばまあ世の中のほとんどのことがそうなってしまうのであるがそれはさておいて、Oxford Advanced Learner's Dictionary of Current Englishをはじめとする学習用英英辞典の歴史が結構浅く、そしてその誕生に日本がからんでいることは意外と知られていないかもしれない。

ウィキペディアにもあるように、1920年代から日本で英語を教えていたA・S・ホーンビーが中心となって編纂されたのであるが、その元となった辞書は1942年(!)に開拓社からIdiomatic and Syntactic English Dictionaryとして刊行され、戦後になってオックスフォード大学出版局から出版され現在に至っている。そしてこの辞書には、斎藤の研究が影響を与えている部分もあるとされている。

1915年に刊行された『熟語本位英和中辞典』にはSaito's Idiomological English-Japanese Dictionaryという英語のタイトルが付けられているが、ここでいう「熟語」や「idiom」は現在のそれよりも広い意味で用いられており、今なら句動詞(Phrasal Verb)としてカテゴライズされているものも含まれていて(というかそちらの方がメインというべきかもしれない)、斎藤はこれをIdiomologyという独自の概念で分類した。

斎藤は膨大な量の英文書籍を読破し例文収集に努めた。手元にある『熟語本位英和中辞典』を引いてみると、takeという動詞には約7ページ費やされ、onやwithといった前置詞は実に10ページ近くがあてられ、すさまじい数の例文が収められている。こういう地道な努力というのが苦手な僕にとっては(そのせいで未だに英語ひとつロクにできない)、この手の話というのはただただ頭が下がるばかりである。

もちろんコンピューターなどあろうはずもなく、収集したデータは全て手作業で分類したわけで、この時代にこれだけのものをよく収集、分類したものだと茫然としてしまうのだが、こういうところからも想像がつくかもしれないが、斎藤はかなりエキセントリックなところもあった性格であったようだ。また当時のことなので仕方が無いとはいえ、今から見ると政治的には少々剣呑なところもなきにしもあらずで、そういうところも含めて「ニッポンスゴイ!」系に利用されかねないようにも思うのだが、管見の限りでは今のところはそういうことはないようで。斎藤については手っ取り早くは『英語達人列伝』(斎藤兆史著)でコンパクトにまとめられているが、まあこの本も広くは「ニッポンスゴイ!」系といえなくもないような雰囲気もなくはないが……。

ちなみに僕は十数年前に古本屋で書き込みがある『熟語本位英和中辞典』を安く見つけて購入した。前の持主は蛍光ペンでいくつか線を引いているのだが、今の普通の英和辞典で事足りるような言葉にぴっとやっていて、わざわざこれを買って何をしようとしていたのかと不思議に思うのだが、そうだから売ってしまったということなのか。
idiomやPhrasal Verb など数多くの辞書が手に入る今となっては英語学習者必携とまでは言えないが、現在読んでもなかなかに面白い辞書であることは間違いので、こういったのに関心のある人は手に取って損はないと思います。高いけど……


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佐藤太郎(仮)

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