『我ら見しままに  万延元年遣米施設の旅路』

『我ら見しままに  万延元年遣米施設の旅路』(マサオ・ミヨシ著)の注にこんな箇所がある。


フランシス・L・ホークス著『遠征記』第一巻二四八頁。ペリーは航海中は個人としての記録は一切残さないよう全員に厳命してから、この公的記録を書く役目をホークスに与えた。(もちろん、ペリーの高圧的な要求を守らなかった者も何人かいた。たとえば、サミュエル・ウェルズ・ウィリアムズやジョージ・ヘンリー・プレブルなど。)ホークスの記録は多くの面で貴重であるが、残念なほど平凡なものである。ナサニエル・ホーソーンによれば、「(ペリーが)今朝、私に会いにきた。……彼はすぐ自分の特殊な用件を私に持ち出した。つまり、彼の遠征の記録を出版するために、彼のメモや資料を整理する適当な人物を推薦してくれないかと尋ねたのである。彼は私にその仕事をして欲しいと考えていたのだが、もちろん私には公務があるからそれは無理だろうと言ってくれた。私は、ハーマン・メルヴィルや他にも一、二の人の名を挙げた。しかし彼は当時の文学にいくらか通じているようで、私の思いつく名前を熱心に聞き糺そうとはしなかった。」(『旅の記録』第一巻一七二頁。一八五四年一二月)。もしアメリカと日本の最初の接触がホーソーンによって書かれていたら、どうだろう! あるいはそれ以上に、メルヴィルによって書かれていたら!


確かにホーソーンやメルヴィルが書いていてくれればと思うし、そういった体裁で書かれる小説なんてのもあってもいいのかもしれない。


不勉強にも初めて知ったのだが、「数ある咸臨丸の絵のなかでも、最も有名」である「咸臨丸難航図」を描いた鈴藤勇次郎は、「帰国後、幕府の海軍に戻り、順調に昇進した。倒幕後、彼は、是が非でも、榎本武揚の率いる艦隊に馳せ参ずるつもりだった。一八六八年、榎本は幕府精鋭の軍艦を率いて、北海道に逃走した。新政府に挑戦して、人口希薄な北海道に徳川の新天地を築く計画であった。しかし、鈴藤は病に倒れ、出航に間に合わなかった。無念の思いに駆られて、彼は自ら切腹して果てた」とのことである。

咸臨丸の乗組員といえば勝海舟や福沢諭吉などが有名であろうが、ミヨシは玉虫左太夫という人物に注目する。玉虫は仙台藩に帰藩後も順調に出世していったが、新たな「官軍」への対応をめぐり、当初は「会津に降伏を勧める一方で、官軍には全面的対決を避けるよう、調停工作をした」。しかし会津がこれを拒否し、官軍が仙台藩にも強硬に出ると、「玉虫は調停役の立場を捨て、奥羽同盟を積極的に推進し、東北二五藩に呼びかけ、不法にも「官軍」を名乗る西南諸藩に抗して武器を取るよう、提唱した」。仙台藩が降伏すると、仙台沖に停泊していた榎本の軍艦に玉虫は乗り込もうとするが、その前に出航してしまう。玉虫ら佐幕派を連れ出すために徳川方の軍艦が二日後に入港するがずであったが、玉虫はその間に捕らえられた。玉虫は朝敵として切腹を命じられた。

玉虫は勝や福沢と違って洋学の摂取に積極的だったわけではない。むしろ古いタイプの武士/官僚であったし、それゆえに出世もできたというところもあろう。小姓の役職に付き、全国をめぐって情報収集を行い、その膨大な報告書から彼の「鋭い観察眼」が確認できるという。そして玉虫は藩校の教授にまでなる。

玉虫は「封建制を疑い、批判した。それは人の胸を打つほど個人に徹した批判であり、急進的な考え方であった。にもかかわらず、彼は旧体制を死守しようとした。日本全土の政治状況を熟知していたにもかかわらず、なおかつ、奥羽同盟の力で破竹の薩長連合の勢いに歯止めをかけられる、と信じていたようである。奥羽同盟の計画では、京都の天皇に対抗して、北日本の天皇を擁立し、新しい幕府を樹立することを企図していた」。

「玉虫は、あまり重要でなかった藩の政変に巻き込まれて、せっかくの知性と行動力を空費してしまったのだ、と感じないわけにはいかない。彼の生、そして、その死を大きく左右したのは、多分に、偶然の力であったのではないか。彼が勝や小栗のような直参旗本であったならば、あるいは、次代の指導者のような薩長の武士であったならば、どのような道を歩んだであろうか。勝のように、旧制度の解体に奔走しながらも、新制度の誕生にはためらいをみせたであろうか。あるいは小栗のように、頑迷にも次代に抗して、幕府の崩壊を押し止めようとしたであろうか。それとも大久保利通のように、倒幕へと自分の藩を導いたであろうか。玉虫は非凡な学識と行動力を持つ人物であった。しかし、歴史の持つ過酷な偶然の力のために、その優れた洞察力と豊かな想像力をあたら散らせてしまったのは、実に惜しいことである」。

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