『学校で教えてくれない本当のアメリカの歴史』

ハワード・ジン著 R.ステフォフ編『学校で教えてくれない本当のアメリカの歴史』




有名な『民衆のアメリカ史』(A people’s history of the united states)を若者向けに編集したもの。邦題はなんかあれですが原題はyoung  people’s history of the united states




コロンブスの「アメリカ到達」から2006年の中間選挙までのアメリカの歴史。
目次を見ればこの本の内容は想像できるだろう。いくつか章題を書き出してみよう。

コロンブスがはじめた征服の歴史
アメリカの大問題、人種差別と奴隷制のはじまり
「建国の父」たちの素顔
格差のピラミッド

ハワード・ジンは少数者、抑圧されている者たち、虐げられた者たちの視点からアメリカ史を語り直していく。
『民衆のアメリカ史』についての否定的見解、とりわけ若い世代への悪影響を心配する声にジンはこう応える。

なぜ、大人なら急進的で批判的見解を耳にしてもよいが、十九歳以下のティーンエージャーには不適当だと思うのだろう?(中略)自分の国の政治をありのままに見つめるには未熟だ、と若い人たちのことを決めつけるのはまちがっていると思う。そう、それはありのままとはどういうことなのか、という問題なのだ。自分の過ちを正すには、わたしたち一人ひとりが、その過ちをありのままに見つめなければならない。この国の政治を評価するときにも、同じことがいえるのではないか。
 わたしの考える愛国心とは、政府のすることをなんでも無批判に受け入れることではない。民主主義の特質は、政府の言いなりになることではないのだ。(
p.7)

ジンのこの考え方には大いに賛同するものだが、本書の中にはやや厳しすぎるのでは、と思うところもあった。逆に考えるなら、それだけ僕が「神話」に毒されているということなのかもしれない。
「神話」とは政治的なものだ。それは日本の『古事記』や『日本書紀』を思い出せばいいだろう。
現代においても「神話」は再生産されていることを描いたのがロラン・バルトの『神話作用』であった。

「アメリカ」とは人工国家である。コロンブスがアメリカを「発見」するはるか以前から住んでいた人々は、「アメリカ」に住んでいたのではない。
しばし言われるが、「アメリカ」には「神話」がなく(つまりヨーロッパから船で渡ってきた白人には、ということ)そのためにピルグリム・ファーザーズや建国をめぐる歴史といった近過去が「神話」化されていったのである。

その一番わかりやすい例が名高い独立宣言の起草者であるトマース・ジェファーソンについてである。現在でも独立宣言のその先進性への評価は高い。
「しかし、この宣言が訴えかける対象には、インディアン、黒人奴隷、そして女性はふくまれていなかった」(p.68)のである。
他ならぬジェファーソン自身が奴隷所有者であるだけでなく、奴隷の女性に子どもまで生ませていたのも有名な話である。ちなみに現代アメリカ文学の代表的作家の一人、スティーブ・エリクソンの『Xのアーチ』はジェファーソンと彼の子どもを生んだサリー・ヘミングスをめぐる物語である。
ジェファーソンについてのある種の倒錯したエピソードは広く知られているが、それによって彼の名声に傷がつくことはない、少なくとも多くの人々が傷をつけようとはしない。これぞまさに神話の創造である。

このようなことは、もちろんアメリカに限定された話ではない。
例えば日本において明治維新やそれにかかわった人々は完全に神話化されている(ついでになぜか「反動勢力」のはずの新撰組までも)。
現在の日本において、「保守主義者」を自認する人の多くが依拠する「伝統」とは明治以降に人工的に作られたものなのである。
日本を扱ったものではいがホブズボウムの『創られた伝統』を参照すれば、世界各地で日々「伝統」が、神話が作られていっていることがわかる。

本書が厳しすぎるところもあるのでは、と書いたが、そう思ったのはまぎれもない侵略戦争であるメキシコ戦争について、アメリカの国民的詩人であるウォルト・ホイットマンが賛美するような記事を書いていると指摘したところなど。確かに「アメリカは拡張するだけでなく、圧倒する術も心得ているのである!」(p.120)と書いたホイットマンはあまりに不用意である。この後にいささか皮肉めいて書かれるヘンリー・デイビッド・ソローが抗議のために人頭税の支払いを拒否して投獄されたのとは対照的である。
ではなぜ僕は「厳しすぎる」と思ったのか。ホイットマンはある意味では両面からアメリカ的な詩人といえる。一方では、ナイーブとも思えるようなアメリカ賛歌をうたった。もちろんホイットマンが讃えたのは人種差別をするアメリカなどではなく、すばらしき民主主義のアメリカである。また一方で、彼はゲイの詩人でもある。マッチョでホモフォビアな国アメリカの国民的詩人がゲイである!ホイットマンのセクシャルな詩をあえて無視しようとする人もいるが、そんなことが通じるはずもない。ホイットマンの存在とは、アメリカの「おめでたさ」を象徴するものでもあり、またアメリカという場所が常にアメリカ的なものから逸脱する存在を生み出すことをも象徴している。もちろんこの「逸脱」の一例がハワード・ジンでもある。紙数の関係もあるのだろうが、そこらへんにもふれていてくれたらなあ、とも。

広く流通する「アメリカ神話」を中和するものとしてもいいし、また日本人も本書からその姿勢を大いに学ぶべきところでもあるだろう。

最後に訳についてなんだけど、若い人向けならもう少し文体や訳語をやわらくしたほうが、とも思う。まあ、あまり子ども向けっぽくわざとらしい語り口調にしてしまうのもそれはそれで微妙なところだが。
ただ訳注なんかは本文にとけこませる形ででもいいのでもう少し丁寧に付けたほうがよかったかな。

Conversations with History: Howard Zinn





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